ITストラテジスト試験参考書
経営戦略に基づき IT で事業を変革する最高峰の国家資格、ITストラテジスト(ST)。本コースは午前(科目A)の四肢択一を対象に、ST固有の午前II専門(経営戦略マネジメント・技術戦略マネジメント・ビジネスインダストリ・システム戦略・システム企画・企業活動と法務)を中心に対策します(午前I共通は応用情報 AP コースが土台/午後の記述・論述式は対象外)。
ITストラテジスト試験(ST)について
ITストラテジスト試験(ST)は、IPA(情報処理技術者試験) が提供するプロフェッショナル・エキスパートレベルの認定資格です。このページでは、試験範囲を全 6 章・25 節の参考書として体系的に解説し、本番形式の練習問題で理解度を確認できます。下の章一覧から順に読み進め、「問題集で演習する」で実力を試すのが効率的な学習の流れです。
試験で問われる分野(出題範囲の目安)
- 経営戦略マネジメント約 18%
- 技術戦略マネジメント約 12%
- ビジネスインダストリ約 14%
- システム戦略約 20%
- システム企画約 20%
- 企業活動・法務・セキュリティガバナンス約 16%
配点は本番試験の目安です。各分野は下の章・節で詳しく解説しています。
1経営戦略マネジメント
- 1.1経営戦略の全体像と競争戦略
外部環境分析(PEST)と内外を統合するSWOT、業界の魅力度を測る5フォース、価値の源泉を分解するバリューチェーン、ポーターの3つの基本戦略(コストリーダーシップ/差別化/集中)とVRIOを、「自社の位置取りに照らしてどの競争戦略を選ぶか」という判断力として学びます。
- 1.2事業ポートフォリオと成長戦略
複数事業への資源配分を市場成長率×相対シェアで判断するPPM(BCGマトリクス)(花形/金のなる木/問題児/負け犬)、製品×市場で成長方向を選ぶアンゾフの成長マトリクス、M&A・アライアンスとコアコンピタンス・多角化を、「限られた資金をどの事業へ配分するか」という判断力として学びます。
- 1.3バランススコアカードと戦略目標管理
戦略を財務・顧客・内部業務プロセス・学習と成長の4視点で具体化するバランススコアカード(BSC)と戦略マップ、最終目標のKGI・重要成功要因のCSF・中間指標のKPIの関係と因果連鎖を、「目標を正しく指標へ落とし込み、ずれたKPIを見抜く」判断力として学びます。
- 1.4マーケティング戦略
市場を切り分け狙いを定めるSTP(セグメンテーション/ターゲティング/ポジショニング)、売り手視点の4Pと買い手視点の4C、製品ライフサイクル、チャネル・プライシング、CRMとLTV、ブランドを、「狙う顧客層の制約に合わせてマーケティングミックスを一貫させる」判断力として学びます。
2技術戦略マネジメント
- 2.1技術経営(MOT)とイノベーション類型
技術を事業価値へ結びつける技術経営(MOT)の考え方と、イノベーションの4つの軸——製品そのものを変えるプロダクトイノベーションと作り方を変えるプロセスイノベーション、既存の性能軸を伸ばす持続的イノベーションと新たな価値軸で市場を塗り替える破壊的イノベーション、自前主義のクローズドイノベーションと外部資源を取り込むオープンイノベーション——を学び、自社の能力・スピードの制約下でどの方針を選ぶかを判断します。
- 2.2イノベーションのジレンマと技術の普及
優良企業ほど既存顧客・持続的技術に注力するあまり破壊的技術への対応に遅れるイノベーションのジレンマの構造、新技術・新製品が普及する過程を初期採用者と前期多数派の間の溝で捉えるキャズム、採用者を5類型に分けるイノベータ理論(普及曲線)、技術の期待と幻滅の波を描くハイプサイクル、研究から事業化までの2つの関門である死の谷とダーウィンの海を学び、先行企業が既存顧客に縛られずに破壊的技術へ対応する判断を扱います。
- 2.3技術ロードマップと研究開発戦略
市場・製品・技術を時間軸で結びつけて開発の道筋を示す技術ロードマップ、保有・獲得すべき技術の魅力度と自社の位置づけを評価する技術ポートフォリオ、技術の成長と成熟の限界を描く技術のSカーブと次世代技術への乗り換え判断、差別化を守り攻める特許戦略、外部の知を取り込む産学連携、囲い込むべきコア技術を学び、限られた研究開発資源をどこにどう配分するかを判断します。
- 2.4デザイン思考と新規事業開発
利用者への共感から課題を発見し試作と検証を反復するデザイン思考、最小限の製品で仮説を素早く検証するリーンスタートアップ/MVP、事業の要素を9つの枠で可視化するビジネスモデルキャンバス、既存事業の深化と新規領域の探索を両立する両利きの経営(知の探索と知の深化)を学び、市場の不確実性が高い新規事業で「作り込んでから出す」か「小さく試して学ぶ」かを判断します。
3ビジネスインダストリ
- 3.1e-ビジネスとデジタルビジネスモデル
EC・ロングテール・オムニチャネル・シェアリングエコノミー・プラットフォームビジネス(両面市場とネットワーク効果)・フィンテック・サブスクリプションといったデジタルビジネスモデルを、ITストラテジストが「自社がどの市場にどう参入するか」を判断する道具として学びます。単なる用語暗記ではなく、価値の源泉(自社製品を売るのか/二つの利用者群をつなぐのか)に応じてどのモデルが適合するかを見極める判断が要点です。
- 3.2IoT・組込み応用とエンジニアリングシステム
IoT のビジネス活用、生産管理方式(MRP/JIT・かんばん方式/セル生産)、スマート工場(Industrie4.0)、CAD/CAM/CAE、予知保全を、ITストラテジストが製造現場の効率化をどう判断するかという観点で学びます。需要変動という制約下で JIT と安全在庫(バッファ)のどちらを重視するか、といったトレードオフ判断が要点です。
- 3.3業種別ソリューションと基幹システム
サプライチェーン全体を最適化するSCM、顧客との関係を深めるCRM、基幹業務を単一基盤に統合するERP、営業活動を支援するSFA、金融・流通・製造・公共などの業種別ソリューション、そして需要予測を、ITストラテジストが自社の戦略に照らして選ぶ観点で学びます。ERPの標準機能に業務を合わせるフィット・トゥ・スタンダードと個別カスタマイズのどちらが自社の差別化戦略に適合するか、という判断が要点です。
- 3.4AI・データのビジネス活用
勘や経験でなくデータで意思決定するデータドリブン経営、AI・機械学習をどの業務課題に適用すれば実際の事業価値を生むかの判断、ビッグデータの活用、物理を仮想空間に写すデジタルツイン、データそのものを価値に変えるデータの利活用と価値化を学びます。「AIだから」ではなく、具体的な経営指標(KPI)に結びつく所にAIを投じ、誇大な期待(ハイプ)と切り分ける判断が要点です。
4システム戦略
- 4.1情報システム戦略と全体最適化
経営戦略の実現手段として情報化の方向性を定める情報システム戦略と、個別最適の積み上げでは達成できない全体最適化方針の考え方を学びます。情報システム戦略が経営戦略と整合していなければならないこと、部門ごとの部分最適が全社の重複投資・サイロ化・データ不整合を招くこと、そして情報システム化基本計画として全体像を描いたうえで個別投資を位置づける判断を扱います。
- 4.2エンタープライズアーキテクチャ(EA)
全体最適化を実現する代表的手段であるEA(エンタープライズアーキテクチャ)を、ビジネス(BA)/データ(DA)/アプリケーション(AA)/テクノロジ(TA)の4体系として理解し、現状のAs-Isから目標のTo-Beを描き移行計画でつなぐ手順、参照モデルの役割、そして「ある課題がどの体系(層)の問題か」を切り分ける判断を学びます。
- 4.3DXとデジタル変革
既存業務の局所的なIT化=デジタイゼーション、業務プロセス全体のデジタル化=デジタライゼーション、そしてデータとデジタル技術で製品・サービス・ビジネスモデル・組織を変革し競争優位を確立するDXの3段階の区別を核に、安定重視のSoRと俊敏性重視のSoEの使い分け、DX推進指標、レガシー刷新と「2025年の崖」を学びます。「単なるIT化」と「真のDX(事業変革)」を見分ける判断が要点です。
- 4.4業務プロセス改革(BPR/BPM)
業務プロセスを抜本的に再設計するBPRと、業務プロセスを継続的に可視化・改善し続けるBPMの違いを核に、DFD・BPMN による業務モデリング、ワークフローとRPAによる自動化、可視化と継続的改善のサイクルを学びます。ボトルネックに対し「抜本的な再設計(BPR)が要るのか、既存プロセスを前提とした部分的な改善・自動化(BPM/RPA)で足りるのか」を見極める判断が要点です。
- 4.5IT投資マネジメントとソリューション活用
個別案件の採否だけでなく、全社のIT投資をIT投資ポートフォリオとして「維持(Run)/成長(Grow)/変革(Transform)」のバランスで管理する考え方、複数プロジェクトを戦略目標の便益実現に束ねるプログラムマネジメント、共通フレーム(SLCP)の企画・要件定義プロセス、そしてクラウド/SaaS活用と内製vs外製の判断を学びます。予算制約下でリスクとリターンのバランスを取る投資判断が要点です。
5システム企画
- 5.1システム化構想・システム化計画
経営戦略・情報システム戦略を受けて情報システム化の全体像・方針を描くシステム化構想と、それを受けて対象範囲・体制・投資額・スケジュール・効果・リスクを具体化するシステム化計画の役割分担、そして計画を確定する前に技術的・経済的・運用的なフィジビリティスタディ(実現可能性の評価)で前提・制約条件とリスクを見極める判断を学びます。
- 5.2要件定義と非機能要件
業務上達成すべき業務要件、システムが実現する機能要件、性能・可用性・セキュリティなど品質・制約を定める非機能要件の区別と、IPA の非機能要求グレード(可用性/性能・拡張性/運用・保守性/移行性/セキュリティ/システム環境・エコロジー)を用いて可用性水準とコストのトレードオフを利用者と合意する判断、そして利害関係者要件・要求分析・トレーサビリティの確保を学びます。
- 5.3調達計画と実施(RFI/RFP)
市場・技術情報を集めるRFI(情報提供依頼)→要件を提示して提案を求めるRFP(提案依頼書)→提案評価→ベンダー選定→契約という調達の順序、RFP の記載事項、契約形態やSLA・グリーン調達、そして評価基準を事前に明示して公平性を保つ判断(要件が未確定なら先に RFI を出す等)を学びます。
- 5.4投資対効果の評価
IT投資案を評価するROI、将来キャッシュフローを割引率で現在価値に割り引いて初期投資を差し引くNPV(正味現在価値)、NPV=0となる割引率のIRR(内部収益率)、投資額の回収年数を測る回収期間法(単純・割引)、ライフサイクル全体のTCOを用い、単純回収期間とNPVが食い違うときにどちらを重視して投資判断を下すか(時間価値と回収後キャッシュフローの扱い)を、数値を解釈して判断する力を学びます。
6企業活動・法務・セキュリティガバナンス
- 6.1経営管理とコーポレートガバナンス
企業を規律づけるコーポレートガバナンス、業務の適正を担保する内部統制(職務分掌など)、社会的責任のCSR/SDGs/ESG、事業継続のBCP、そして改善サイクルのPDCAと即応のOODAを、ITストラテジストが経営者・取締役会に何を提言すべきかという判断として学びます。
- 6.2OR・IEと意思決定
複数案を数量的に評価して選ぶための道具——デシジョンツリー(期待値による意思決定)、PERT/CPM(クリティカルパスと日程短縮)、線形計画法・在庫管理(EOQ)・待ち行列、相関・回帰の落とし穴——を、ITストラテジストが投資案・計画を判断する場面で使いこなせるように学びます。
- 6.3会計・財務
財務諸表(BS/PL/CF)の読み方、固定費と変動費率から採算を測る損益分岐点、資本効率を測るROE/ROA、利益と現金のズレ(減価償却・黒字倒産)を、ITストラテジストが投資の採算やソリューションの収益性を判断する場面で使えるように学びます。数値を計算して投資可否を判断できることが要点です。
- 6.4関連法規・標準化・情報セキュリティガバナンス
知的財産(著作権/特許/不正競争防止法)、下請法(中小受託取引適正化法)の遵守事項、PL法・労働者派遣と偽装請負、標準化(ISO/JIS/デファクト)、そして情報セキュリティガバナンスを、ITストラテジストが調達・委託や事業のコンプライアンスリスクを判断する場面で使えるように学びます。

