Instiq
第5章 · システム企画·v1.0.0·更新 2026/7/17·読了目安 約16分

変更要約: 初版

5.4投資対効果の評価

この節の要点

IT投資案を評価するROI、将来キャッシュフローを割引率で現在価値に割り引いて初期投資を差し引くNPV(正味現在価値)、NPV=0となる割引率のIRR(内部収益率)、投資額の回収年数を測る回収期間法(単純・割引)、ライフサイクル全体のTCOを用い、単純回収期間とNPVが食い違うときにどちらを重視して投資判断を下すか(時間価値と回収後キャッシュフローの扱い)を、数値を解釈して判断する力を学びます。

IT投資は経営資源を投じる意思決定であり、ストラテジストは「その投資が見合うか」を数値で評価し、経営に説明できなければなりません。代表的な指標が、利益と投資額の比であるROI、将来のキャッシュフローを割引率で現在価値に割り引いて初期投資を差し引くNPV(正味現在価値)、NPV=0となる割引率であるIRR(内部収益率)、そして投資額を何年で回収できるかを測る回収期間法です。ここで重要なのは、指標ごとに「何を見て何を見落とすか」が異なる点です。とりわけ単純回収期間は回収の速さだけを見て時間価値と回収後のキャッシュフローを無視するため、NPVと食い違うことがあります。この節では、複数の指標が異なる結論を示すときに、ストラテジストがどの数値をどう解釈して投資判断を下すかを学びます。

5.4.1主要な投資評価指標

  • NPV(正味現在価値)=各年の将来キャッシュフローを割引率で現在価値に割り引いた合計から初期投資額を差し引いた値。NPV>0なら投資は採算に合うIRR(内部収益率)=NPVがちょうど0になる割引率で、これが資本コストを上回れば有利と判断する。両者は貨幣の時間価値を反映する。
  • 回収期間法(PBP)=投資額を回収するまでの年数。時間価値を無視する単純回収期間と、割引後のキャッシュフローで測る割引回収期間がある。ROI=利益÷投資額(収益性の比率)。TCO=初期費用だけでなく運用・保守を含むライフサイクル全体の総所有コスト。

5.4.2指標が食い違うときの判断

  • 単純回収期間は回収の速さしか見ず、回収後のキャッシュフローと時間価値を無視する。このため、回収は遅いが長期に大きなリターンを生む案を過小評価し、NPVと逆の結論を示すことがある。回収期間だけで判断すると、長期の大型リターンを見落とす。
  • 単純回収期間とNPVが食い違うときは、経済的価値(時間価値を反映した投資期間全体の正味の価値)を表すNPVを重視するのが原則。回収期間は資金繰りや回収の速さというリスク面の補助指標として用いる。指標は単独でなく併用し、TCOやリスクも踏まえて総合的に判断する。
試験ポイント

「NPV=将来CFを割引率で現在価値に割り引いた合計−初期投資、NPV>0で採算」「IRR=NPV=0となる割引率」「単純回収期間は時間価値と回収後CFを無視」「回収期間だけで判断せずNPV/IRRと併用」「TCOは運用・保守を含むライフサイクル総コスト」が最頻出です。「割引を無視して単純合計から初期投資を引くとNPV」「NPV計算で初期投資を差し引き忘れる」「回収が速い案が常に経済的に優れる」という誤りに注意しましょう。

あるストラテジストが、投資予算の制約から2つのIT投資案A・Bのどちらか一方を選ぶ判断を求められています。両案とも初期投資は900万円で同額です。案Aのキャッシュフローは1年目500万円・2年目400万円・3年目100万円・4年目100万円、案Bは1年目300万円・2年目300万円・3年目400万円・4年目500万円と見込まれます。まず単純回収期間を見ると、案Aは1年目と2年目の累計で(500+400=)900万円に達し、ちょうど2.0年で回収します。案Bは2年目までの累計が600万円、3年目に不足分300万円を回収して約2.75年かかります。単純回収期間だけを見れば、回収の速い案Aが有利に見えます。しかしここで単純回収期間の弱点——回収後のキャッシュフローと貨幣の時間価値を無視している——を思い出す必要があります。案Bは回収こそ遅いものの、後年に大きなキャッシュフロー(3年目400万円・4年目500万円)を生み、投資期間全体では案Aより多くの価値を生みます。そこで割引率10%(割引係数:1年0.909・2年0.826・3年0.751・4年0.683)でNPVを計算します。案Aは(500×0.909+400×0.826+100×0.751+100×0.683)=928.3万円から初期投資900万円を引いて約+28万円。案Bは(300×0.909+300×0.826+400×0.751+500×0.683)=1,162.4万円から900万円を引いて約+262万円です。NPVでは案Bが案Aを大きく上回ります。ここでのストラテジストの判断は、単純回収期間が示す案A有利という結論に引きずられず、経済的価値(時間価値を反映した投資期間全体の正味価値)を表すNPVを重視して案Bを選ぶことです。単純回収期間で案Aが優れて見えたのは、案Bの大きな後年リターンを回収後として無視していたからにすぎません。ただしNPVが唯一の物差しではなく、回収の速さは資金繰りやリスクの面で意味を持つため、案Bの回収が遅いことに伴う資金繰り上の制約や事業環境の不確実性が大きい場合には、その補助指標としての回収期間も加味します。このように、複数の指標が異なる結論を示すときは、各指標が「何を見て何を見落とすか」を理解したうえで、原則としてNPVを軸に、回収期間やTCO・リスクを補助的に併用して総合判断するのが、投資対効果評価におけるストラテジストの核心です。

指標見るもの見落としがちなもの
NPV割引後の投資期間全体の正味価値(時間価値・全期間を反映=弱点が少ない)
単純回収期間投資額を回収する速さ回収後のキャッシュフローと時間価値
TCO運用・保守を含むライフサイクル総コスト得られる効果・収益(コスト側の指標)
注意

ひっかけ: 「NPVは将来キャッシュフローの単純合計から初期投資を引いたもの」は誤りです——NPVは各年のCFを割引率で現在価値に割り引いてから合計し、初期投資を差し引きます(割引を忘れる、初期投資を引き忘れるのは典型的な計算ミス)。また「単純回収期間が短い案は常に経済的に優れる」も誤り=単純回収期間は回収後のCFと時間価値を無視するため、長期に大きなリターンを生む案(NPVが高い案)を過小評価します。回収期間だけで判断せず、NPV/IRRと併用します。

NPV・IRR・回収期間・TCOで投資案を評価する図。
数値を解釈して投資を判断する

5.4.3この節のまとめ

  • NPV=将来CFを割引率で現在価値に割り引いた合計−初期投資(NPV>0で採算)、IRR=NPV=0となる割引率
  • 単純回収期間は時間価値と回収後CFを無視するため、長期の大型リターンを見落とす。回収期間だけで判断しない
  • 単純回収期間とNPVが食い違うときは経済的価値を表すNPVを重視し、回収期間・TCO・リスクを補助的に併用して総合判断する

進捗の記録にはログインが必要です。

理解度チェック

(軽い確認用)

Q1. あるIT投資案について、割引率5%、初期投資3,000万円、キャッシュフローは1年目1,500万円・2年目1,200万円・3年目1,000万円である。割引係数を1年0.952・2年0.907・3年0.864とするとき、NPV(正味現在価値)に基づく投資判断として最も適切なものはどれか。

Q2. 投資案A・Bはいずれも初期投資900万円。Aのキャッシュフローは1年目500・2年目400・3年目100・4年目100万円、Bは1年目300・2年目300・3年目400・4年目500万円。割引率10%(割引係数 1年0.909・2年0.826・3年0.751・4年0.683)のとき、単純回収期間とNPVからの投資判断として最も適切なものはどれか。

Q3. 5年間利用する業務システムの調達で、案Xは初期費用500万円・年間運用費900万円、案Yは初期費用2,000万円・年間運用費500万円である。TCO(総所有コスト)に基づく判断として最も適切なものはどれか。

理解度を確認第5章「システム企画」の問題を解く

学習の記録を残しませんか

参考書はすべて無料で読めます。無料登録すると、問題集での演習・既読と進捗の記録・間違えた問題の復習・ハイライトが使えます。