変更要約: 初版
5.1システム化構想・システム化計画
経営戦略・情報システム戦略を受けて情報システム化の全体像・方針を描くシステム化構想と、それを受けて対象範囲・体制・投資額・スケジュール・効果・リスクを具体化するシステム化計画の役割分担、そして計画を確定する前に技術的・経済的・運用的なフィジビリティスタディ(実現可能性の評価)で前提・制約条件とリスクを見極める判断を学びます。
システム企画の出発点は、思いつきで開発対象を選ぶことではなく、経営戦略・情報システム戦略から情報システム化の全体像を描き、その実現可能性を見極めてから計画に落とし込むことです。上流で全体方針を描くのがシステム化構想、それを受けて対象範囲・体制・投資額・スケジュール・効果・リスクを具体化するのがシステム化計画です。そして計画を確定する前に、技術・経済・運用の各面から本当に実現できるかを評価するのがフィジビリティスタディ(実現可能性の評価)です。この節では、ITストラテジストが前提・制約条件とリスクの中でどの実現方式・投資規模を選ぶかを判断する視点で、企画上流の意思決定を学びます。
5.1.1システム化構想とシステム化計画の役割
- システム化構想=経営戦略・情報システム戦略と業務の課題・あるべき姿を踏まえ、どの業務をどう情報システム化するかの全体像・方針・目的を描く企画の最上流。個別の実装ではなく「何のために・どこを・どの方向で」変えるかを定める。
- システム化計画=構想を受けて、対象範囲・実現方式・体制・スケジュール・投資額・期待効果・リスクを具体化する。共通フレーム(SLCP)の企画プロセスに位置づけられ、この計画が要件定義以降の土台となる。上流の構想が下流の計画を方向づける関係にある。
5.1.2フィジビリティスタディと前提・制約・リスク
- フィジビリティスタディ(実現可能性の評価)=計画を確定する前に、技術的(実現手段・スキル)・経済的(投資対効果)・運用的(体制・運用能力)・日程的な各側面から実現できるかを総合的に評価する。ある1面だけが実現可能でも、他の面が不成立なら計画は成り立たない。
- 前提と制約条件(予算上限・納期・法規制・既存システムとの連携・要員)とリスクを計画段階で明確化し、その範囲内で対象範囲・実現方式を選ぶ。制約に起因するリスクへの対応方針(段階導入・スキル確保・投資規模の再検討)を計画に織り込むのがストラテジストの役割。
「システム化構想=経営戦略を受けた全体像・方針」「システム化計画=対象範囲・体制・投資・スケジュール・効果・リスクの具体化」「フィジビリティスタディ=技術・経済・運用など多面での実現可能性評価」が最頻出です。「技術的に実現可能なら他の面を問わず着手する」「制約・リスクは開発しながら対処すればよい」という早合点に注意——実現可能性は複数面の総合評価で、制約とリスクは計画段階で見極めます。
ある製造業のITストラテジストが、需要予測を高度化するための新システムのシステム化計画を確定しようとしています。構想段階では「AIによる需要予測で在庫を最適化し、欠品と過剰在庫を同時に減らす」という方針が経営戦略から描かれました。ここでストラテジストは、計画確定の前にフィジビリティスタディを行います。技術的側面では、提案されている最新の予測モデルは理論上は高精度だが、社内にそれを運用・チューニングできるデータサイエンスのスキルが不足していることが分かりました。経済的側面では、初期投資は大きい一方で、削減できる在庫コストによる回収の見込みは前提となる需要変動の大きさに強く依存し、不確実性が高いと評価されます。運用的側面では、現場の在庫担当が予測結果をどう業務判断に反映するかの運用プロセスが未整備で、システムだけ導入しても効果が出ない懸念があります。ここで重要なのは、「技術的には実現可能だから直ちに着手する」と早合点しないことです。技術的実現可能性は複数ある評価軸の一つにすぎず、運用スキルの不足や投資回収の不確実性という制約・リスクを無視して計画を確定すれば、稼働しても効果が出ない、あるいは投資が回収できないという失敗に陥ります。ストラテジストは、前提・制約条件(予算上限・要員・既存の在庫管理システムとの連携)を明確化したうえで、リスクへの対応方針を計画に織り込む判断を行います。具体的には、いきなり全社・全品目へ適用するのではなく、需要変動が大きく効果の見込める一部の製品ラインに絞って段階的に導入(スモールスタート)してフィジビリティを実証し、並行して運用スキルの確保(外部人材の活用・内製化の育成)と運用プロセスの整備を進め、その結果を見て投資規模の拡大を判断する、という計画に修正します。このように、システム化構想の方針を受けつつ、フィジビリティスタディで技術・経済・運用の各面を総合評価し、前提・制約・リスクの範囲内で実現方式と投資規模を選ぶことが、企画上流におけるストラテジストの中核的な判断です。
| 実現可能性の側面 | 評価する問い | 見落とすと |
|---|---|---|
| 技術的 | 実現手段・必要なスキルは確保できるか | 運用できない技術を導入してしまう |
| 経済的 | 投資に見合う効果が回収できるか | 投資が回収できない計画を確定する |
| 運用的 | 体制・運用プロセスで効果を出せるか | 稼働しても業務で効果が出ない |
ひっかけ: 「技術的に実現可能なら、経済的・運用的な面を評価せずに直ちに開発へ着手してよい」は誤りです——フィジビリティスタディは技術・経済・運用・日程の複数面を総合評価するもので、ある1面が可能でも他面が不成立なら計画は成り立ちません。また「前提・制約条件やリスクは計画確定後に洗い出せばよい」も誤り=制約とリスクは計画段階で明確化し、その範囲内で対象範囲・実現方式を選び、対応方針を計画へ織り込むのがストラテジストの役割です。
5.1.3この節のまとめ
- システム化構想は経営戦略から全体像・方針を描き、システム化計画が対象範囲・体制・投資・スケジュール・効果・リスクを具体化する
- フィジビリティスタディは技術・経済・運用など複数面で実現可能性を総合評価する(1面だけでは判断しない)
- 前提・制約条件とリスクは計画段階で明確化し、その範囲内で実現方式・投資規模を選び対応方針を織り込む
進捗の記録にはログインが必要です。
理解度チェック
(軽い確認用)Q1. あるシステム化計画で、提案技術は最新だが社内に運用スキルがなく、削減効果による投資回収の見込みも需要変動に依存して不透明である。ストラテジストのフィジビリティスタディに基づく判断として最も適切なものはどれか。
Q2. 経営戦略を受けて情報システム化の全体像・方針を描く段階と、対象範囲・体制・投資額・スケジュール・効果・リスクを具体化する段階の関係の説明として最も適切なものはどれか。
Q3. システム化計画の策定にあたり、予算上限・関連法規制・既存システムとの連携・要員といった前提・制約条件の扱いについて、ストラテジストの判断として最も適切なものはどれか。

