変更要約: 初版
6.3会計・財務
財務諸表(BS/PL/CF)の読み方、固定費と変動費率から採算を測る損益分岐点、資本効率を測るROE/ROA、利益と現金のズレ(減価償却・黒字倒産)を、ITストラテジストが投資の採算やソリューションの収益性を判断する場面で使えるように学びます。数値を計算して投資可否を判断できることが要点です。
ITストラテジストの提案は、最終的には採算(もうかるか)と資金(回るか)という財務の言葉で経営に説明できなければ通りません。この節では、企業の財政状態を示す貸借対照表(BS)、一定期間の儲けを示す損益計算書(PL)、現金の増減を示すキャッシュフロー計算書(CF)の役割を押さえたうえで、固定費と変動費率から「いくら売れば黒字か」を求める損益分岐点、自己資本や総資産に対する利益効率を示すROE/ROA、そして会計上の利益と手元現金がズレる仕組み(減価償却は非現金費用、黒字でも資金が尽きる黒字倒産)を、実際に数値を計算して投資可否を判断する場面を通じて学びます。
6.3.1損益分岐点と限界利益
- 損益分岐点売上高=固定費÷(1−変動費率)。変動費率=変動費÷売上高。限界利益=売上高−変動費=売上高×(1−変動費率)で、限界利益が固定費をちょうど賄う売上高が損益分岐点。予想売上が損益分岐点を下回れば赤字。
- IT投資による自動化は固定費(減価償却等)を増やす一方、変動費率を下げて限界利益率を高めることが多い。売上が十分大きければ自動化の方が利益が大きくなるが、損益分岐点自体はむしろ上がる場合もある——だから「予想売上がどの水準か」を併せて判断する。
6.3.2資本効率と利益・現金のズレ
- ROE(自己資本利益率)=当期純利益÷自己資本。株主が出したお金でどれだけ利益を上げたかの効率。ROA(総資産利益率)=利益÷総資産。純利益の絶対額が大きくても、投じた資本が大きければ効率(ROE/ROA)は低い。高ROEが負債活用(レバレッジ)による場合は財務リスクも併せて評価する。
- 会計上の利益と現金収支は一致しない。減価償却費は費用として利益を減らすが現金支出を伴わない(非現金費用)ため、CFでは足し戻す。逆に、PLが黒字でも売上債権の回収遅延や在庫の増加で現金が不足し、黒字倒産に至ることがある。だからPLの利益だけでなくCF(特に営業CF)も精査する。
「損益分岐点=固定費÷(1−変動費率)」「限界利益=売上×(1−変動費率)」「ROE=純利益÷自己資本(絶対額でなく効率)」「減価償却は非現金費用でCFで足し戻す」「黒字でも資金不足で倒産しうる(営業CFを見る)」が最頻出です。「損益分岐点=固定費×変動費率」「ROE=純利益÷総資産」といった式の取り違えに注意しましょう。
あるITストラテジストが、新サービスの事業計画の採算を財務の観点で判断しています。この事業は固定費が6,000万円、変動費率が60%と見込まれます。損益分岐点売上高は 6,000÷(1−0.6)=6,000÷0.4=15,000万円です。ところが営業部門が示す予想売上は14,000万円で、損益分岐点を下回っています。この売上における利益を確かめると、限界利益=14,000×(1−0.6)=5,600万円、そこから固定費6,000万円を引くと−400万円の赤字です。ストラテジストは「損益分岐点を下回る計画のまま投資に踏み切るのは危険」と判断し、固定費の削減か、価格・数量による売上増(15,000万円超)か、変動費率を下げる施策を伴わなければ投資を見送る/計画を見直すよう提言します。ここで初心者が陥りやすいのは、「損益分岐点=固定費×変動費率=3,600万円」と誤った式で計算し、予想売上14,000万円なら余裕で黒字だと誤って投資にゴーサインを出すことです。式を取り違えると採算判断が根本から狂います。次に、この事業を含む会社全体の財務健全性も見ます。A社は当期純利益1,000万円・自己資本20,000万円、B社は当期純利益600万円・自己資本6,000万円という2社を比較すると、純利益の絶対額はA社(1,000万円)が大きいものの、ROEはA社が1,000÷20,000=5%、B社が600÷6,000=10%で、自己資本の収益効率はB社の方が高いと分かります。絶対額の大きさに惑わされず効率で見るのがROEの要点です。ただしB社の高ROEが多額の負債活用(レバレッジ)によるものであれば、財務リスクも併せて評価する必要があります。最後に、たとえPLが黒字でも安心はできません。売上債権の回収が遅れたり在庫が膨らんだりすると現金が不足し、黒字倒産に陥ることがあるため、ストラテジストは利益だけでなく営業キャッシュフローも必ず精査します。会計上の利益と現金の動きは一致しない——この視点が投資判断の落とし穴を防ぎます。
| 指標/概念 | 計算/意味 | 判断の要点 |
|---|---|---|
| 損益分岐点 | 固定費÷(1−変動費率) | 予想売上がこれを下回れば赤字 |
| 限界利益 | 売上−変動費=売上×(1−変動費率) | 固定費を賄えるかを見る |
| ROE | 当期純利益÷自己資本 | 絶対額でなく資本効率で見る(レバレッジ注意) |
| 減価償却費 | 非現金費用(利益は減るが現金は出ない) | CFで足し戻す |
| 営業CF | 本業の現金収支 | 黒字でも資金不足=黒字倒産に注意 |
ひっかけ: 「損益分岐点=固定費×変動費率」は誤りです——正しくは固定費÷(1−変動費率)で、式を取り違えると採算判断が根本から狂います。また「純利益の絶対額が大きい会社ほど常に資本効率も高い」も誤り=ROE=純利益÷自己資本であり、投じた資本が大きければ絶対額が大きくても効率は低くなります。「PLが黒字なら資金繰りは必ず健全」も誤り=減価償却は非現金費用で、売上債権・在庫の増加により黒字でも現金が不足しうる(黒字倒産)ため営業CFを精査します。
6.3.3この節のまとめ
- 損益分岐点=固定費÷(1−変動費率)。予想売上がこれを下回れば赤字(式の取り違えに注意)
- ROE=当期純利益÷自己資本は資本効率。純利益の絶対額でなく効率で見る(高ROEは負債活用に注意)
- 会計上の利益と現金は一致しない。減価償却は非現金費用、黒字でも資金不足で倒産しうる(営業CFを精査)
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理解度チェック
(軽い確認用)Q1. 新サービスの事業計画は固定費6,000万円・変動費率60%と見込まれ、予想売上は14,000万円である。ITストラテジストの採算判断として最も適切なものはどれか。
Q2. A社は当期純利益1,000万円・自己資本20,000万円、B社は当期純利益600万円・自己資本6,000万円である。自己資本の収益効率に関する判断として最も適切なものはどれか。
Q3. 損益計算書は黒字なのに、営業キャッシュフローがマイナスの会社がある。ITストラテジストの見方として最も適切なものはどれか。

