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第6章 · 企業活動・法務・セキュリティガバナンス·v1.0.0·更新 2026/8/7·読了目安 約16分

変更要約: 初版

6.3会計・財務

この節の要点

財務諸表(BS/PL/CF)の読み方、固定費と変動費率から採算を測る損益分岐点、資本効率を測るROE/ROA、利益と現金のズレ(減価償却・黒字倒産)を、ITストラテジストが投資の採算やソリューションの収益性を判断する場面で使えるように学びます。数値を計算して投資可否を判断できることが要点です。

ITストラテジストの提案は、最終的には採算(もうかるか)と資金(回るか)という財務の言葉で経営に説明できなければ通りません。この節では、企業の財政状態を示す貸借対照表(BS)、一定期間の儲けを示す損益計算書(PL)、現金の増減を示すキャッシュフロー計算書(CF)の役割を押さえたうえで、固定費と変動費率から「いくら売れば黒字か」を求める損益分岐点、自己資本や総資産に対する利益効率を示すROE/ROA、そして会計上の利益と手元現金がズレる仕組み(減価償却は非現金費用、黒字でも資金が尽きる黒字倒産)を、実際に数値を計算して投資可否を判断する場面を通じて学びます。

6.3.1損益分岐点と限界利益

  • 損益分岐点売上高=固定費÷(1−変動費率)。変動費率=変動費÷売上高。限界利益=売上高−変動費=売上高×(1−変動費率)で、限界利益が固定費をちょうど賄う売上高が損益分岐点。予想売上が損益分岐点を下回れば赤字。
  • IT投資による自動化は固定費(減価償却等)を増やす一方、変動費率を下げて限界利益率を高めることが多い。売上が十分大きければ自動化の方が利益が大きくなるが、損益分岐点自体はむしろ上がる場合もある——だから「予想売上がどの水準か」を併せて判断する。

6.3.2資本効率と利益・現金のズレ

  • ROE(自己資本利益率)=当期純利益÷自己資本。株主が出したお金でどれだけ利益を上げたかの効率。ROA(総資産利益率)=利益÷総資産。純利益の絶対額が大きくても、投じた資本が大きければ効率(ROE/ROA)は低い。高ROEが負債活用(レバレッジ)による場合は財務リスクも併せて評価する
  • 会計上の利益と現金収支は一致しない減価償却費は費用として利益を減らすが現金支出を伴わない(非現金費用)ため、CFでは足し戻す。逆に、PLが黒字でも売上債権の回収遅延や在庫の増加で現金が不足し、黒字倒産に至ることがある。だからPLの利益だけでなくCF(特に営業CF)も精査する。
試験ポイント

「損益分岐点=固定費÷(1−変動費率)」「限界利益=売上×(1−変動費率)」「ROE=純利益÷自己資本(絶対額でなく効率)」「減価償却は非現金費用でCFで足し戻す」「黒字でも資金不足で倒産しうる(営業CFを見る)」が最頻出です。「損益分岐点=固定費×変動費率」「ROE=純利益÷総資産」といった式の取り違えに注意しましょう。

あるITストラテジストが、新サービスの事業計画の採算を財務の観点で判断しています。この事業は固定費が6,000万円、変動費率が60%と見込まれます。損益分岐点売上高は 6,000÷(1−0.6)=6,000÷0.4=15,000万円です。ところが営業部門が示す予想売上は14,000万円で、損益分岐点を下回っています。この売上における利益を確かめると、限界利益=14,000×(1−0.6)=5,600万円、そこから固定費6,000万円を引くと−400万円の赤字です。ストラテジストは「損益分岐点を下回る計画のまま投資に踏み切るのは危険」と判断し、固定費の削減か、価格・数量による売上増(15,000万円超)か、変動費率を下げる施策を伴わなければ投資を見送る/計画を見直すよう提言します。ここで初心者が陥りやすいのは、「損益分岐点=固定費×変動費率=3,600万円」と誤った式で計算し、予想売上14,000万円なら余裕で黒字だと誤って投資にゴーサインを出すことです。式を取り違えると採算判断が根本から狂います。次に、この事業を含む会社全体の財務健全性も見ます。A社は当期純利益1,000万円・自己資本20,000万円、B社は当期純利益600万円・自己資本6,000万円という2社を比較すると、純利益の絶対額はA社(1,000万円)が大きいものの、ROEはA社が1,000÷20,000=5%、B社が600÷6,000=10%で、自己資本の収益効率はB社の方が高いと分かります。絶対額の大きさに惑わされず効率で見るのがROEの要点です。ただしB社の高ROEが多額の負債活用(レバレッジ)によるものであれば、財務リスクも併せて評価する必要があります。最後に、たとえPLが黒字でも安心はできません。売上債権の回収が遅れたり在庫が膨らんだりすると現金が不足し、黒字倒産に陥ることがあるため、ストラテジストは利益だけでなく営業キャッシュフローも必ず精査します。会計上の利益と現金の動きは一致しない——この視点が投資判断の落とし穴を防ぎます。

指標/概念計算/意味判断の要点
損益分岐点固定費÷(1−変動費率)予想売上がこれを下回れば赤字
限界利益売上−変動費=売上×(1−変動費率)固定費を賄えるかを見る
ROE当期純利益÷自己資本絶対額でなく資本効率で見る(レバレッジ注意)
減価償却費非現金費用(利益は減るが現金は出ない)CFで足し戻す
営業CF本業の現金収支黒字でも資金不足=黒字倒産に注意
注意

ひっかけ: 「損益分岐点=固定費×変動費率」は誤りです——正しくは固定費÷(1−変動費率)で、式を取り違えると採算判断が根本から狂います。また「純利益の絶対額が大きい会社ほど常に資本効率も高い」も誤り=ROE=純利益÷自己資本であり、投じた資本が大きければ絶対額が大きくても効率は低くなります。「PLが黒字なら資金繰りは必ず健全」も誤り=減価償却は非現金費用で、売上債権・在庫の増加により黒字でも現金が不足しうる(黒字倒産)ため営業CFを精査します。

損益分岐点図と利益・現金のズレ。
採算と資金は別に確かめる

6.3.3この節のまとめ

  • 損益分岐点=固定費÷(1−変動費率)。予想売上がこれを下回れば赤字(式の取り違えに注意)
  • ROE=当期純利益÷自己資本は資本効率。純利益の絶対額でなく効率で見る(高ROEは負債活用に注意)
  • 会計上の利益と現金は一致しない。減価償却は非現金費用、黒字でも資金不足で倒産しうる(営業CFを精査)

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理解度チェック

(軽い確認用)

Q1. 新サービスの事業計画は固定費6,000万円・変動費率60%と見込まれ、予想売上は14,000万円である。ITストラテジストの採算判断として最も適切なものはどれか。

Q2. A社は当期純利益1,000万円・自己資本20,000万円、B社は当期純利益600万円・自己資本6,000万円である。自己資本の収益効率に関する判断として最も適切なものはどれか。

Q3. 損益計算書は黒字なのに、営業キャッシュフローがマイナスの会社がある。ITストラテジストの見方として最も適切なものはどれか。

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