変更要約: 初版
1.1ネットワークの構成要素と基本概念
通信を層で捉えるTCP/IPモデルとOSI参照モデルの対応、上位データを下位ヘッダで包むカプセル化、そしてフレーム(L2)とパケット(L3)の違い、MACアドレスとIPアドレスという2種類のアドレッシングを、「この症状はどの層の話か」を見分ける基礎として学びます。
ネットワークのサポート業務では、「Webが開けない」という一言の裏で、ケーブルの抜け(物理)・スイッチの問題(L2)・IP設定の誤り(L3)・名前解決の失敗(アプリ)など、まったく違う原因が起こり得ます。これらを切り分ける最初の地図が層モデルです。この節ではTCP/IPモデルとOSI参照モデルの対応を押さえ、データが各層を下りながらヘッダを付けられていくカプセル化、そしてフレームとパケット、MACアドレスとIPアドレスという「2種類の住所」を、暗記ではなく症状をどの層に振り分けるかという視点で学びます。
1.1.12つのモデルとその対応
- OSI参照モデルは通信を7層に分ける教科書的なモデル:下位から物理(L1)/データリンク(L2)/ネットワーク(L3)/トランスポート(L4)/セッション(L5)/プレゼンテーション(L6)/アプリケーション(L7)。各層は下の層のサービスだけを使い上の層へサービスを渡すため、下の層を替えても上の層に影響しない(層の独立性)。
- TCP/IPモデルは実務でよく使う4階層:ネットワークアクセス層(OSIのL1+L2相当)/インターネット層(L3相当)/トランスポート層(L4相当)/アプリケーション層(L5〜L7相当)。OSIの上位3層を1つにまとめるのが最大の違いで、実際のインターネットはこのモデルに基づく。
- 2つは別物ではなく同じ通信を違う粒度で描いた地図。サポート現場では「L3の到達性」「L2のスイッチ」のようにOSIの層番号で語りつつ、仕組みはTCP/IPで動く、という対応を頭に置くと会話がかみ合う。
1.1.2カプセル化とフレーム・パケット
- カプセル化=送信側で各層が自分のヘッダ(L2はトレーラも)を付けて下の層へ渡していく処理。受信側は逆に各層でヘッダを外していく。各層のデータのかたまりは名前が違い、データ(L7)→セグメント(L4)→パケット(L3)→フレーム(L2)→ビット(L1)と呼ぶ。
- パケットはL3(IP)のかたまりで送信元/宛先のIPアドレスを持ち、ネットワークをまたいで運ばれる。フレームはL2のかたまりで、パケットをさらに送信元/宛先のMACアドレスで包んだもの=同じセグメント内の次の機器まで運ぶための単位。「どこまで届けるか」の範囲が両者で違う。
- 障害報告の言葉遣いはヒントになる:「フレームのエラーが多い」ならL2/物理、「パケットが届かない・別ネットに行けない」ならL3、「名前が引けない」ならアプリ層。症状からどの層・どの単位の話かを見分けるのがサポートの第一歩。
「OSI7層⇔TCP/IP4層(上位3層を1つに統合)」「PDU名称:データ/セグメント/パケット/フレーム/ビット」「パケット=IPアドレスで別ネットへ・フレーム=MACアドレスで同一セグメント内」「MACはL2・機器固有/IPはL3・設定で変わる」が頻出です。症状をどの層に振り分けるかを意識しましょう。
ヘルプデスクにあるユーザから「同じ島の同僚とはファイル共有できるのに、別フロアのサーバにだけ全然つながらない」と連絡が来たとします。ここで層モデルの見方があると、原因の当たりを素早く付けられます。まず「同じ島(同一セグメント)内は通じる」ということは、そのPCのLANケーブルやスイッチのポート(物理・L2)、そしてMACアドレスによるフレーム転送は正常に動いている可能性が高い、と判断できます。問題は「別フロア=別ネットワークにだけ行けない」点で、これはパケットを別ネットワークへ送り出すL3の話です。別ネットへ出るにはIPの設定(特に後の章で学ぶデフォルトゲートウェイ)が必要なので、まず ipconfig(Windows)でそのPCのIPアドレスやゲートウェイ設定を確認するのが妥当な次の一手になります。逆に、もし同じ島の同僚とも通じないなら、疑う層は物理/L2へ下がります。ここで大切なのは、「同一セグメント内はフレーム=MAC、別ネットワーク越えはパケット=IP」という層の役割分担を知っていれば、症状の範囲(どこまで通じるか)から原因の層をしぼり込めるという点です。用語の暗記ではなく、症状を層に翻訳するこのクセが、サポートのスピードを決めます。
| 観点 | フレーム(L2) | パケット(L3) |
|---|---|---|
| 使うアドレス | MACアドレス(機器固有) | IPアドレス(設定で決まる) |
| 届ける範囲 | 同一セグメント内の次の機器まで | 別ネットワークをまたいで最終宛先まで |
| 主に扱う機器 | スイッチ | ルータ |
| モデル上の層 | データリンク層(L2) | ネットワーク層(L3) |
ひっかけ: 「MACアドレスとIPアドレスは同じもので、どちらか一方あれば通信できる」は誤りです——MACアドレスはL2で機器に固有(同一セグメント内の配達札)、IPアドレスはL3で設定により決まる(ネットワークをまたぐ宛先)で、役割が違い両方使われます。また「フレームもパケットと同じで別ネットワークまで届く」も誤り=フレームは同一セグメント内の配達単位で、別ネットへはルータがパケットを転送します。
1.1.3この節のまとめ
- OSI7層とTCP/IP4層は同じ通信の別粒度の地図。TCP/IPはOSIの上位3層(L5〜L7)を1つにまとめる
- カプセル化で各層がヘッダを付け、PDUはデータ/セグメント/パケット/フレーム/ビットと層で名前が変わる
- フレームはMACで同一セグメント内、パケットはIPで別ネットワークへ。症状の範囲から原因の層を見分けるのが基本
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理解度チェック
(軽い確認用)Q1. あるPCは同じ島(同一セグメント)内の機器とは通信できるが、別フロアにある別ネットワークのサーバにだけ到達できない。この症状が主に関係する層と単位の組み合わせとして最も適切なものはどれか。
Q2. TCP/IPモデルとOSI参照モデルの対応について、同僚に説明する内容として最も正確なものはどれか。
Q3. カプセル化の過程で、トランスポート層(L4)のデータのまとまりを指す名称(PDU)として最も適切なものはどれか。

