Instiq
第4章 · サービス継続と可用性·v1.0.0·更新 2026/7/11·読了目安 約15分

変更要約: 初版

4.4バックアップとリカバリ(方式・RTO/RPO)

この節の要点

データを保護するフルバックアップ増分バックアップ差分バックアップの違いと復旧手順、複数世代を保持する世代管理、災害に備える遠隔地保管、そしてバックアップ方式が復旧目標(RTORPO)にどう対応するかを学び、事業要件から方式を選ぶ判断力を養います。

バックアップは「取っておけば安心」という保険ではなく、「いつの時点まで戻せて(RPO)、どれだけ速く復旧できるか(RTO)」という事業要件を満たすために方式を設計する作業です。フル・増分・差分はそれぞれ、バックアップ時の所要時間・保管容量と、復旧時の手順の複雑さ・所要時間がトレードオフの関係にあり、「取る側の負担」と「戻す側の速さ」のどちらを重視するかで選択が変わります。この節では、各方式の復旧手順を正確に理解し、RTO/RPOという復旧目標から逆算して方式を選ぶ判断軸を養います。

4.4.1フル・増分・差分バックアップ

  • フルバックアップ=対象データを毎回すべて複製する方式。バックアップ時間・保管容量は最大だが、復旧はそのフル1つを戻すだけで完了し最も速く・単純増分バックアップ=前回のバックアップ(フルでも増分でも)以降に変更された分だけを複製する方式。毎回のバックアップは最小・最速だが、復旧には直近のフル+その後のすべての増分を順に適用する必要があり、増分の数が増えるほど復旧が長く・複雑になり、途中の1つでも欠けると復旧できない。
  • 差分バックアップ直近のフルバックアップ以降に変更された分を毎回複製する方式(前回の差分ではなく、常にフル基準)。バックアップ時間・容量は増分より大きく差分が溜まるほど増えるが、復旧は「直近のフル+最新の差分1つ」だけで済み、増分より速く・単純で堅牢(適用する要素が2つで、鎖の途中欠損リスクが小さい)。増分と差分は名前が似るが、増分=前回以降・差分=直近フル以降という基準点の違いが復旧手順と堅牢性を分ける。

4.4.2世代管理と遠隔地保管

  • 世代管理=バックアップを1つだけでなく複数世代(例:直近7日分・4週分)保持する運用。最新1つだけだと、論理的な破壊(誤削除・ランサムウェアによる暗号化・データ不整合)がバックアップにも反映された後では正常な状態に戻せない。複数世代あれば、破壊が起きる前の世代まで遡って復旧できる。「バックアップは取れているのに、壊れたデータで上書きされていて戻せない」を防ぐのが世代管理の目的。
  • 遠隔地保管(オフサイト保管)=バックアップを本番システムとは地理的に離れた場所に保管する運用。バックアップを本番と同じ建物・同じデータセンタに置くと、火災・地震・洪水で本番データとバックアップが同時に失われる。遠隔地保管により、本番拠点が被災してもバックアップは無事でありサービス継続(ITSCM)が成立する。近年はクラウドストレージへの複製が遠隔地保管の実装として一般的。
試験ポイント

「フル=取得は重いが復旧は最速・単純」「増分=取得は最軽量だが復旧はフル+全増分を順次適用(鎖が長い)」「差分=直近フル基準・復旧はフル+最新差分1つ(増分より速く堅牢)」の対比が最頻出です。増分と差分の基準点(前回以降か・直近フル以降か)の取り違えに注意。世代管理は論理破壊対策、遠隔地保管は災害対策で目的が別です。

4.4.3バックアップ方式とRTO/RPOの対応

  • RPO(許容データ損失)はバックアップの取得頻度で決まる。1日1回のバックアップならば、障害直前のバックアップから障害までの最大1日分のデータが失われる(RPO=1日)。RPOを短くしたければ取得間隔を短く(例:1時間ごと、あるいは連続的な同期レプリケーション)する必要があり、頻度を上げるほど取得負荷とコストが増す。
  • RTO(復旧の速さ)はバックアップ方式(復旧手順の単純さ)とデータ量で決まる。復旧を最も速くしたいならフル(1つ戻すだけ)が有利、増分は復旧の鎖が長くRTOが延びやすい。事業要件のRTO/RPOをまず数値で確定し、RPOから取得頻度を、RTOから方式(フル寄りか増分許容か)を逆算して設計する。両立が難しければ、フル+増分/差分を組み合わせ(週次フル+日次増分等)てバランスを取る。

ある基幹業務システムのサービスマネージャが、バックアップ方式を再設計しているとします。事業要件を整理すると、復旧時点は最大でも1時間前まで(RPO=1時間)復旧完了は障害から2時間以内(RTO=2時間)が求められています。現行は「1日1回の深夜フルバックアップのみ」で、これではRPOが最大1日となり要件(1時間)をまったく満たせません。まずRPOを満たすには取得頻度を1時間ごとに上げる必要があります。ここで「毎時フルバックアップを取る」と判断すると、フルは取得負荷と容量が大きく、業務時間帯に毎時フルを回すと本番性能を圧迫してしまうため現実的ではありません。そこで週次(または日次)でフルを取り、毎時は増分または差分で取得する構成を選びます。次にRTO(2時間以内)を満たす復旧手順を検討すると、増分方式は「直近フル+その後の全増分を順次適用」となり、1時間ごとの増分が1日で最大24個溜まると復旧の鎖が長くRTOを超えるリスクがあります。一方差分方式なら「直近フル+最新の差分1つ」だけで復旧でき、適用要素が2つで速く堅牢なため、RTO2時間を満たしやすくなります。ここでのひっかけは「増分と差分は同じようなもの」という誤解で、実際は復旧手順が根本的に異なり、RTO要件を満たせるかどうかを分けるのが両者の違いです。さらに、遠隔地保管(クラウド複製)で災害時もバックアップを確保し、世代管理で論理破壊(ランサムウェア暗号化等)が起きる前の世代まで遡れるようにします。サービスマネージャは、RTO/RPOという事業要件を数値で確定し、RPOから取得頻度を、RTOから方式(差分の採用等)を逆算するという順序で設計します。方式ありきでなく、要件から逆算するのが要点です。

方式取得の負荷/容量復旧手順
フル最大直近フル1つを戻すだけ(最速・単純)
増分最小直近フル+その後の全増分を順次適用(鎖が長い)
差分中程度(差分が溜まると増)直近フル+最新の差分1つ(増分より速く堅牢)
注意

ひっかけ: 「差分バックアップは前回の差分以降の変更分を取る」は誤りです——差分は常に「直近フル以降」の変更分を取り、復旧はフル+最新差分1つで済みます。「前回以降」を取るのは増分で、復旧にフル+全増分の順次適用が要ります。また「バックアップを最新1世代だけ取っておけば十分」も誤り=論理破壊が反映された後は戻せず、世代管理が必要です。

方式とRTO/RPO対応の図。
復旧目標に方式を合わせる

4.4.4この節のまとめ

  • フルは復旧最速・取得最重、増分は取得最軽・復旧は鎖が長い、差分は直近フル基準で復旧はフル+最新差分1つ
  • 世代管理は論理破壊(誤削除・ランサムウェア)対策、遠隔地保管は災害対策で目的が別である
  • RPOは取得頻度で、RTOは方式(復旧手順の単純さ)で決まる——事業要件から逆算して方式を選ぶ

進捗の記録にはログインが必要です。

理解度チェック

(軽い確認用)

Q1. 基幹システムでRPO=1時間・RTO=2時間が求められ、現行は「1日1回の深夜フルのみ」である。要件を最も適切に満たすバックアップ設計はどれか。

Q2. 増分バックアップと差分バックアップの違いとして、最も適切なものはどれか。

Q3. ランサムウェアによる暗号化や誤削除といった論理的なデータ破壊に対して、バックアップから正常な状態へ確実に戻せるようにする運用はどれか。

理解度を確認第4章「サービス継続と可用性」の問題を解く

学習の記録を残しませんか

参考書はすべて無料で読めます。無料登録すると、問題集での演習・既読と進捗の記録・間違えた問題の復習・ハイライトが使えます。