変更要約: 初版
4.2リスク対応戦略の選択
マイナスの影響を持つ脅威への回避・転嫁・軽減・受容の4戦略と、プラスの影響を持つ好機への活用・共有・強化・受容の4戦略を、コスト対効果を踏まえて使い分ける判断力、および対応により生じる二次リスク・対応後も残る残存リスク・不測の事態に備えるコンティンジェンシ計画を学びます。
リスクの分析が終わっても、PMの仕事は終わりません。次に必要なのは、個々のリスクの性質(発生確率・影響度・対応コスト)に応じて最適な対応戦略を選び、その対応が新たなリスクを生まないか、対応後にも残るリスクをどう扱うかまで見通すことです。脅威と好機ではそもそも戦略の方向性が逆であり、同じ「軽減」でも脅威向けと好機向け(強化)では意味が異なります。この節では、コスト対効果の判断軸を中心に、対応戦略の使い分けと、対応に伴う副次的なリスクへの備えを学びます。
4.2.1脅威への4つの対応戦略
- 回避=リスクの原因そのものを取り除き、脅威が発生する可能性をゼロにする戦略(例:リスクの高い工程を計画から外す、代替の確実な調達ルートに切り替える)。確実性が最も高いが、スコープの縮小や代替コストを伴うことが多い。転嫁=リスクによる影響の責任を第三者に移す戦略(例:保険契約・保証条項付きの契約・業務委託)で、リスク自体は消えず、負担する主体が変わるだけである点に注意。
- 軽減=発生確率または影響度を許容できる水準まで引き下げる戦略(例:プロトタイプでの事前検証、冗長構成の追加、テスト工程の強化)で、回避ほど確実ではないが、コストを抑えつつリスクを扱いやすい水準に減らせるバランス型。受容=対応コストをかけず、リスクが顕在化した場合にその影響を引き受ける戦略で、積極的受容(コンティンジェンシ予備費をあらかじめ確保しておく)と消極的受容(顕在化時に都度対処する)に分かれる。
4.2.2好機への4つの対応戦略
- 活用=好機の発生確率を確実に100%に近づける戦略で、脅威の「回避」に対応する(例:優秀な要員を確保して確実に前倒し完了させる)。共有=好機を実現する能力を持つ第三者とベネフィットを分け合う戦略で、脅威の「転嫁」に対応する(例:技術力の高いパートナー企業と共同で取り組み成果を分配する)。
- 強化=好機の発生確率または好影響の規模を引き上げる戦略で、脅威の「軽減」に対応する(例:追加リソースを投入して前倒し完了の可能性を高める)。受容(好機)=好機を積極的に追求する対応コストをかけず、発生すればその利益を享受する戦略で、脅威の「受容」に対応する。脅威と好機は方向が逆なだけで、対応戦略は1対1で対応関係にある点を押さえる。
脅威=回避/転嫁/軽減/受容、好機=活用/共有/強化/受容の1対1対応(回避⇔活用・転嫁⇔共有・軽減⇔強化・受容⇔受容)が最頻出です。「転嫁はリスク自体が消える」は誤り——転嫁は負担者が変わるだけでリスクは残ります。積極的受容(予備費確保)と消極的受容(都度対処)の違いも問われます。
4.2.3二次リスク・残存リスクとコンティンジェンシ計画
- 二次リスク=ある脅威への対応策を実施した結果として新たに生じるリスク(例:業務委託による転嫁の結果、委託先の品質管理不足という新たなリスクが生じる)。対応策を選ぶ際は、元のリスクの軽減効果だけでなく、対応策自体が二次リスクを生まないかまで評価する必要がある。残存リスク=対応策を実施してもなお残る、許容範囲内のリスク。
- コンティンジェンシ計画=あらかじめ定義した特定のリスク事象(トリガー条件)が実際に発生した場合にのみ発動する、事前に準備された対応策。トリガー条件を明確化しておくことで、リスク顕在化時に迷わず即座に対応できる利点がある。コンティンジェンシ計画に充てる予算がコンティンジェンシ予備費で、既知だが個別対応が未確定のリスクに対して確保する(未知のリスクに備えるマネジメント予備とは別枠)。
あるPMが、主要な開発言語に精通した要員が1名しかおらず、その要員が離任すると開発が停止するという脅威(発生確率:中、影響度:甚大)への対応を検討しているとします。候補は3つ。案1は業務委託によって外部ベンダーに開発を丸ごと任せる(転嫁)、案2は要員をもう1名追加育成し知識を分散させる(軽減)、案3は何もせず、離任時に緊急で中途採用する(受容)です。まず案1を検討すると、確かに自社の要員リスクは第三者に移りますが、リスクそのものが消えるわけではなく、委託先の要員も同様の離任リスクを抱えている上、契約管理・品質担保という新たな二次リスクが生じます。案3は対応コストがかからない反面、実際に離任が起きた場合の影響(開発停止)が甚大で、緊急採用は成功する保証がなく、対応が後手に回ります。案2は追加要員の育成コストがかかりますが、知識を複数名に分散させることで発生確率そのものを引き下げられ、かつ二次リスクも小さい——コスト対効果で最も優れた選択です。ここで実務上さらに重要なのは、案2を実施してもなお残る残存リスク(例えば育成中の要員がまだ完全に代替できるレベルに達していない期間)に対し、コンティンジェンシ計画(例えば「主要要員が実際に離任の意思表示をした場合、直ちに引き継ぎ期間を確保し外部の即戦力を暫定投入する」という具体的なトリガー条件付きの計画)を別途準備しておくことです。対応戦略の選択とコンティンジェンシ計画は排他的な代替案ではなく、主たる戦略(軽減)を選びつつ、残った残存リスクに向けた保険としてコンティンジェンシ計画を重ねるのが実務上の定石です。
| 脅威(マイナス) | 好機(プラス) | 性質 |
|---|---|---|
| 回避 | 活用 | 発生確率を0または100%に近づける |
| 転嫁 | 共有 | リスクの負担者/受益者を第三者に変える(リスク自体は残る) |
| 軽減 | 強化 | 発生確率または影響の大きさを調整する |
| 受容(積極/消極) | 受容 | 対応コストをかけずに結果を引き受ける |
ひっかけ: 「転嫁すればリスクは消滅する」は誤りです——転嫁はリスクを負担する主体を変えるだけで、リスク自体は残り、委託先の管理不足のような二次リスクが新たに生じうることがあります。また「コンティンジェンシ予備費は未知のリスクに備える予備費である」も誤り=未知のリスクに備えるのはマネジメント予備で、コンティンジェンシ予備費は既知のリスク(個別対応が未確定)に対する予備費です。
4.2.4この節のまとめ
- 脅威=回避/転嫁/軽減/受容、好機=活用/共有/強化/受容が1対1で対応し、コスト対効果で選ぶ
- 転嫁は負担者を変えるだけでリスク自体は残り、対応策が新たな二次リスクを生まないかを評価する
- 主戦略実施後も残る残存リスクにはトリガー条件付きのコンティンジェンシ計画を重ねて備える
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理解度チェック
(軽い確認用)Q1. 主要開発言語に精通した要員が1名のみで、離任すると開発停止に至る脅威(発生確率:中、影響度:甚大)がある。業務委託による転嫁を検討したPMへの助言として最も適切なものはどれか。
Q2. 優秀な要員を追加投入して、ある作業を確実に前倒しで完了できる可能性を100%に近づけたい。この目的に対応する好機への戦略はどれか。
Q3. 既知のリスクに対して個別の対応策はまだ確定していないが、発生時に備えて予算を確保しておきたい。この予算区分として最も適切なものはどれか。

