第4章 · リスクと調達管理·v1.0.0·更新 2026/7/10·読了目安 約15分
変更要約: 初版
4.1リスク特定と分析
この節の要点
リスクを洗い出してリスク登録簿に記録する特定活動、発生確率と影響度の掛け合わせで優先順位を付ける定性的リスク分析(確率・影響度マトリクス)、そして金額換算で対応の妥当性を判断する定量的リスク分析(期待金額価値(EMV)・デシジョンツリー)を学び、限られた予備費をどのリスクに割り当てるべきかを判断する力を養います。
プロジェクトマネージャ(PM)にとってリスクマネジメントの出発点は「リスクを全て潰す」ことではなく、限られたコンティンジェンシ予備費をどのリスクにどれだけ配分すれば期待損失を最も効率よく減らせるかを判断することです。すべてのリスクに同じ厚さの対応を用意すればコストが膨らみ、逆に軽視すれば重大リスクが顕在化したときに手が打てません。この節では、リスクを洗い出して記録する特定活動から、優先順位を付ける定性分析、金額換算で対応の妥当性を検証する定量分析(EMV)までの一連の流れを、予備費配分の判断という実務目的に沿って学びます。
4.1.1リスク特定とリスク登録簿
- リスク特定=プロジェクトに影響しうる不確実な事象を、ブレインストーミング・チェックリスト・専門家へのインタビュー・過去プロジェクトの教訓(教訓リポジトリ)などの技法で洗い出す活動。特定した各リスクはリスク登録簿(リスク登録簿:リスクの内容・原因・発生時の影響・現在の対応状況・責任者(リスクオーナー)を一覧化した文書)に記録し、プロジェクト全体で共有・更新し続ける。
- リスク特定はプロジェクト開始時の一度きりの作業ではなく、フェーズの切り替わりや状況変化のたびに反復して行う継続活動である点が実務上重要。新しいリスクは進行中にも発生し(要件変更・要員交代・外部環境の変化等)、リスク登録簿を更新しないままだと、後から発生したリスクに事前の備えが一切ないまま直面することになる。
4.1.2定性的リスク分析(確率・影響度マトリクス)
- 定性的リスク分析=洗い出した各リスクを、発生確率(高/中/低)×影響度(大/中/小)の確率・影響度マトリクス上に配置し、対応の優先順位を相対的に評価する手法。数値を厳密に金額換算しないため迅速に実施でき、リスクの多いプロジェクト初期のスクリーニングに向く。「発生確率は低いが影響度が甚大」なリスクは、マトリクス上では中程度の位置に見えても、見落とすと致命傷になりうるため優先度を上げて監視対象に含める判断が実務では必要になる。
- 定性分析は優先順位付けの一次スクリーニングであり、対応そのものの妥当性(コストに見合うか)までは判断できない点に注意。「影響度が大きい」からといって無条件に高コストな対応を取るべきとは限らず、対応コストと期待損失の比較には次項の定量的リスク分析が必要になる。

