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第4章 · リスクと調達管理·v1.0.0·更新 2026/7/11·読了目安 約15分

変更要約: 初版

4.1リスク特定と分析

この節の要点

リスクを洗い出してリスク登録簿に記録する特定活動、発生確率と影響度の掛け合わせで優先順位を付ける定性的リスク分析(確率・影響度マトリクス)、そして金額換算で対応の妥当性を判断する定量的リスク分析期待金額価値(EMV)・デシジョンツリー)を学び、限られた予備費をどのリスクに割り当てるべきかを判断する力を養います。

プロジェクトマネージャ(PM)にとってリスクマネジメントの出発点は「リスクを全て潰す」ことではなく、限られたコンティンジェンシ予備費をどのリスクにどれだけ配分すれば期待損失を最も効率よく減らせるかを判断することです。すべてのリスクに同じ厚さの対応を用意すればコストが膨らみ、逆に軽視すれば重大リスクが顕在化したときに手が打てません。この節では、リスクを洗い出して記録する特定活動から、優先順位を付ける定性分析、金額換算で対応の妥当性を検証する定量分析(EMV)までの一連の流れを、予備費配分の判断という実務目的に沿って学びます。

4.1.1リスク特定とリスク登録簿

  • リスク特定=プロジェクトに影響しうる不確実な事象を、ブレインストーミング・チェックリスト・専門家へのインタビュー・過去プロジェクトの教訓(教訓リポジトリ)などの技法で洗い出す活動。特定した各リスクはリスク登録簿(リスク登録簿:リスクの内容・原因・発生時の影響・現在の対応状況・責任者(リスクオーナー)を一覧化した文書)に記録し、プロジェクト全体で共有・更新し続ける。
  • リスク特定はプロジェクト開始時の一度きりの作業ではなく、フェーズの切り替わりや状況変化のたびに反復して行う継続活動である点が実務上重要。新しいリスクは進行中にも発生し(要件変更・要員交代・外部環境の変化等)、リスク登録簿を更新しないままだと、後から発生したリスクに事前の備えが一切ないまま直面することになる。

4.1.2定性的リスク分析(確率・影響度マトリクス)

  • 定性的リスク分析=洗い出した各リスクを、発生確率(高/中/低)×影響度(大/中/小)確率・影響度マトリクス上に配置し、対応の優先順位を相対的に評価する手法。数値を厳密に金額換算しないため迅速に実施でき、リスクの多いプロジェクト初期のスクリーニングに向く。「発生確率は低いが影響度が甚大」なリスクは、マトリクス上では中程度の位置に見えても、見落とすと致命傷になりうるため優先度を上げて監視対象に含める判断が実務では必要になる。
  • 定性分析は優先順位付けの一次スクリーニングであり、対応そのものの妥当性(コストに見合うか)までは判断できない点に注意。「影響度が大きい」からといって無条件に高コストな対応を取るべきとは限らず、対応コストと期待損失の比較には次項の定量的リスク分析が必要になる。
試験ポイント

「リスク特定は反復継続活動・リスク登録簿で一元管理」「定性分析=確率×影響度マトリクスで迅速な優先順位付け・金額換算はしない」「発生確率が低くても影響度が甚大なら優先度を上げる」が最頻出です。定性分析の結果だけで対応コストの妥当性まで判断しないこと——金額換算による妥当性判断は定量分析(EMV)の役割です。

4.1.3定量的リスク分析と期待金額価値(EMV)

  • 定量的リスク分析=リスクを金額(または期間)に換算して数値的に評価する手法で、代表的な技法が期待金額価値(EMV)デシジョンツリー分析EMV = 発生確率 × 影響額で算出し、複数の対応案がある場合はEMV(対応コストを差し引いた期待値)が最も有利な案を選ぶ判断材料にする。好機(プラスの影響)はEMVがプラス、脅威(マイナスの影響)はEMVがマイナスで表す。
  • デシジョンツリー分析=複数の選択肢と、それぞれに続く不確実な事象(発生確率付き)を樹形図で表し、各枝のEMVを合算して期待値が最も有利な意思決定経路を選ぶ手法。分岐ごとに確率と影響額を掛け合わせて合計するため、単純な最大影響額や最大確率だけで判断すると、期待値ベースでは劣る選択肢を選んでしまう誤りに注意が必要。

あるPMが、外部委託先の主要部材の供給遅延リスクについて、2つの対応案を比較検討しているとします。案Aは追加費用200万円で予備の代替調達ルートを事前契約しておく方法で、契約すれば遅延は確実に回避できます。案Bは何もせず遅延リスクを受容し、実際に遅延が発生した場合にのみ追加の特急輸送費(1,000万円)を支払う方法で、事前の情報からこの部材供給遅延の発生確率は30%と見積もられています。ここでEMVを手動で検算すると、案Bの期待損失は 0.3 × 1,000万円 = 300万円です。案Aは発生確率によらず確実に200万円のコストが発生するため、期待コストは200万円で固定です。300万円(案Bの期待損失)>200万円(案Aの確実なコスト)なので、期待値ベースでは案A(予備の代替調達ルートを事前契約)の方が有利という判断になります。ここで陥りやすい誤りは、「発生確率30%は5割未満だから、多くの場合は何もしなくて済む案Bの方が得」という直感的な判断です。EMVは発生確率だけでなく影響額の大きさも掛け合わせた期待値であり、発生確率が低くても影響額が非常に大きい場合はEMVが確実な対応コストを上回ることがある——この状況がまさにそれです。もう一つの注意点は、案Aの200万円という金額が回避(リスクを完全に取り除く対応)であるのに対し、案Bは受容(対応せず、顕在化したら対処する)という異なるリスク対応戦略に対応している点です。数値の比較と戦略の性質の両方を踏まえて意思決定するのがPMの役割です。

項目案A:代替調達ルート契約案B:リスク受容
発生確率関係なし(確実に発生するコスト)30%
影響額/コスト200万円(確実)顕在化時のみ1,000万円
期待コスト(EMV)200万円0.3 × 1,000万円 = 300万円
注意

ひっかけ: 「発生確率が50%未満なら対応コストをかけず受容した方が得」は誤りです——EMV(発生確率×影響額)が対応コストを上回るかどうかで判断すべきで、確率が低くても影響額が極端に大きければEMVが対応コストを上回ることがあります。また「定性分析の結果(影響度大)だけで対応の要否・金額の妥当性を最終判断してよい」も誤り=金額の妥当性判断には定量分析(EMV)が必要です。

確率影響度マトリクスとEMVの図。
リスクを見える化する

4.1.4この節のまとめ

  • リスク登録簿はフェーズ切替や状況変化のたびに更新する継続的な特定活動の記録である
  • 定性分析(確率×影響度マトリクス)は迅速な優先順位付け、定量分析(EMV)は対応コストとの金額比較で妥当性を判断する
  • EMV=発生確率×影響額。確率が低くても影響額が極端に大きい場合はEMVが対応コストを上回りうる

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理解度チェック

(軽い確認用)

Q1. ある部材の供給遅延リスクについて、事前契約による回避策は確実に250万円かかる。何もせず受容した場合、遅延発生確率は20%、発生時の追加コストは1,500万円と見積もられている。EMVに基づく判断として最も適切なものはどれか。

Q2. プロジェクトが要件変更フェーズに入り、新たな外部要員が参画した。この状況でPMが取るべきリスクマネジメント上の行動として最も適切なものはどれか。

Q3. 確率影響度マトリクスで「発生確率は低いが影響度が甚大」と評価されたリスクへの扱いとして、最も適切な判断はどれか。

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