変更要約: 初版
2.3スケジュール短縮の判断
追加コストを投じて作業期間そのものを短縮するクラッシングと、本来は順次実行する作業を並行させるファストトラッキングという2つのスケジュール短縮技法の違いと適用条件、コスト増とリスク増のどちらを許容できるかという判断軸、そしてクリティカルパス上の作業にのみ適用する原則を学びます。
クリティカルパス上の作業が遅延し、あるいは顧客都合で納期そのものが前倒しになったとき、PMは限られた選択肢の中から最適な短縮策を選ばなければなりません。ここで問われるのは「短縮できるかどうか」ではなく、「追加コストを許容してでも確実に縮めるか、コストを抑える代わりにリスク増を許容して並行させるか」というトレードオフの判断です。この節では、クラッシングとファストトラッキングという2つの技法の違いと、状況に応じた使い分けの判断基準を学びます。
2.3.1クラッシングとファストトラッキング
- クラッシング=要員の追加投入や残業・設備の増強など追加コストを投じることで作業そのものの所要期間を短縮する技法。作業の順序関係は変えないためスケジュールリスクの増加は比較的小さいが、コスト効率(追加コスト÷短縮日数=コストスロープ)が悪化し、予算超過のリスクが高まる。要員追加には「新メンバの立ち上げ・コミュニケーションコストにより一時的に生産性が落ちる」というブルックスの法則的な限界もある。
- ファストトラッキング=本来は先行完了後に開始する(FS関係の)作業を、並行して実施できるよう順序を組み替える技法。追加コストはほとんど発生しないが、先行作業の情報が未確定なまま後続作業を進めることになり、手戻り(設計変更の反映漏れ等)のリスクが高まる。追加コストを抑えたい場合に有効だが、リスクの増加を許容できる作業間でのみ適用すべき。
2.3.2適用の原則とトレードオフ判断
- クラッシング・ファストトラッキングはいずれもクリティカルパス上の作業にのみ意味がある。フロートを持つ非クリティカルな作業を短縮しても全体納期は縮まらず、コスト・リスクを無駄に増やすだけである。短縮対象は必ずクリティカルパス上の作業から選ぶ。
- 短縮を重ねてクリティカルパスの所要日数が別の経路(準クリティカルパス)の所要日数を下回ると、クリティカルパスが別の経路へ切り替わる。この時点でそれ以上元の経路を短縮しても全体納期は縮まらないため、短縮のたびに全経路を再計算し、新たなクリティカルパスを特定し直す必要がある。
「クラッシング=追加コストで期間短縮・リスク増は小さい」「ファストトラッキング=並行化でコスト増は小さいがリスク増」「両技法ともクリティカルパス上の作業にのみ適用」「短縮を重ねるとクリティカルパスが切り替わり得るため再計算が必要」が最頻出です。「非クリティカルな作業をクラッシングすれば納期が縮む」という誤りに注意。
前節の例で、クリティカルパスは経路2(作業A→C→D、合計13日)でした。顧客都合により納期を3日前倒ししたいという要求が来て、PMは短縮策を検討しています。まず候補となるのはクリティカルパス上の作業A・C・Dのみであり、非クリティカルな作業B(フロート1日)をどれだけ短縮しても全体納期には一切影響しないため検討対象から除外します。作業Cについて、追加要員を1名投入すれば1日あたり20万円のコストで最大3日まで短縮できるという見積りが得られました(コストスロープ20万円/日)。これはクラッシングの典型で、順序関係を変えないためスケジュールリスクの増加は小さいものの、3日短縮すると追加コスト60万円が確定的に発生します。一方、作業Dは本来「作業Cの完了後に着手する」FS関係でしたが、作業Dの前半部分(全体の設計方針を固める作業)だけであれば作業Cの結果が確定する前でも並行して着手できることが判明しました。これはファストトラッキングに該当し、追加コストはほぼゼロですが、作業Cの結果次第で作業Dの前半部分に手戻りが発生するリスクを伴います。このプロジェクトは仕様凍結が済んでおり作業Cの結果が大きく覆る可能性が低い状況だったため、PMは「まず作業Dをファストトラッキングでコストをかけずに1日短縮し、残り2日は作業Cをクラッシングで確実に短縮する」というハイブリッドな判断を下しました。これにより、追加コストを最小限(2日分・40万円)に抑えつつ、手戻りリスクが低いと判断できる部分にのみファストトラッキングを適用するという、コスト増とリスク増のどちらか一方に偏らないバランスの取れた短縮策を実現しています。
| 技法 | 手段 | コストへの影響 | リスクへの影響 |
|---|---|---|---|
| クラッシング | 要員追加・残業・設備増強 | 増加(コストスロープに比例) | 比較的小さい(順序は不変) |
| ファストトラッキング | 順次作業を並行実施へ組替え | 小さい | 増加(手戻りリスク) |
ひっかけ: 「フロートを持つ非クリティカルな作業をクラッシングすれば、追加コストに見合って全体納期も縮まる」は誤りです——クラッシング・ファストトラッキングとも、全体納期の短縮に効果があるのはクリティカルパス上の作業のみで、非クリティカルな作業への適用はコストやリスクを無駄に増やすだけです。また「ファストトラッキングは追加コストがほぼゼロだから常にクラッシングより優れている」も誤り=手戻りリスクを許容できない局面(仕様未確定・関係者間の調整コストが高い等)ではファストトラッキングを避けクラッシングを選ぶべきです。
2.3.3この節のまとめ
- クラッシング=追加コストで期間短縮・リスク増は小さい。ファストトラッキング=並行化でコスト増は小さいがリスク増
- 両技法ともクリティカルパス上の作業にのみ適用する。非クリティカルな作業への適用は無駄
- 短縮を重ねるとクリティカルパスが切り替わり得るため、短縮のたびに全経路を再計算する
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理解度チェック
(軽い確認用)Q1. クリティカルパスが経路2(A→C→D=13日)、非クリティカルな経路1(A→B→D=12日、作業Bのフロート1日)のプロジェクトで、納期を3日前倒ししたい。作業Bを1日クラッシングする案が提示された。この案への最も適切な評価はどれか。
Q2. クリティカルパス上の作業Cについて、要員追加により1日あたり20万円で最大3日まで短縮できる(クラッシング)。一方、作業Dの前半部分は、作業Cの結果が未確定でも並行着手が可能(ファストトラッキング)だが、この案件は仕様が未凍結で作業Cの結果が覆る可能性が高い。この状況での最も適切な判断はどれか。
Q3. クリティカルパス上の複数作業をクラッシングで繰り返し短縮していったところ、ある時点で当初は非クリティカルだった別経路の所要日数と並んだ。この時点以降のPMの最も適切な対応はどれか。

