変更要約: 初版
4.4クラウドとエッジ
IaaS/PaaS/SaaSのサービスモデルとクラウド接続方式(専用接続/VPN)、VPC(仮想ネットワーク)、遅延に弱い処理を端末近くで行うエッジコンピューティング、コンテンツ配信を高速化するCDN、そしてIoT/M2Mを学び、オンプレミスとクラウド間のネットワーク接続設計の判断力を養います。
業務システムをクラウドへ移行する際、ネットワーク設計者は「どのサービスモデルを使うか」だけでなく「オンプレミスとクラウドをどう接続するか(専用接続かVPNか)」「クラウド上の仮想ネットワークをどう区画設計するか」「遅延に弱い処理をどこで実行するか(クラウドかエッジか)」という一連の判断を迫られます。この節では、要件(遅延許容度・セキュリティ・コスト)に応じたオンプレ/クラウド接続設計の視点を学びます。
4.4.1IaaS/PaaS/SaaSとクラウド接続
- IaaS(Infrastructure as a Service)=仮想サーバ・ストレージ・ネットワークなどインフラ部分をサービスとして提供し、OS以上は利用者が管理する。PaaS(Platform as a Service)=OS・ミドルウェアまでを提供し、利用者はアプリケーションの実装に専念できる。SaaS(Software as a Service)=アプリケーションそのものをサービスとして提供し、利用者は設定・利用のみを行う。利用者の管理範囲がIaaS→PaaS→SaaSの順に狭くなる。
- オンプレミスとクラウドの接続方式は、専用接続(クラウド事業者のデータセンターへ物理的な専用線・広域イーサネット等で直結し、公衆インターネットを経由しない)とVPN接続(インターネットVPNでIPsecトンネルを張る)に大別される。専用接続は帯域保証・低遅延・高セキュリティだが導入コストと工期がかかり、VPN接続は迅速・安価だが公衆網経由でSLAが弱いという、第1節のWAN選定と同型のトレードオフになる。
4.4.2VPC(仮想ネットワーク)
- VPC(Virtual Private Cloud)=クラウド事業者の物理基盤を共有しつつ、利用者ごとに論理的に分離された仮想ネットワークを構築するサービス。利用者はIPアドレス範囲(CIDR)・サブネット・ルーティング・アクセス制御を自由に設計でき、オンプレミスのネットワークと同様の感覚でクラウド上のネットワークを構成できる。
- オンプレミスとVPCを接続する際は、双方のIPアドレス範囲が重複しないよう事前に設計することが必須(重複するとルーティングが破綻する)。専用接続・VPNいずれの方式でも、VPC側にはオンプレミスからの経路を受け付ける仮想ゲートウェイを用意し、ルートテーブルで到達性を制御する。
「IaaS/PaaS/SaaS=利用者の管理範囲がこの順に狭くなる」「専用接続=帯域保証・低遅延・高コスト、VPN接続=迅速・安価・SLA弱」「VPC=論理分離された仮想ネットワーク・オンプレとのIPアドレス重複回避が必須」が最頻出です。オンプレ/クラウド接続の選定は第1節のWAN選定と同じトレードオフ構造である点を意識すること。
4.4.3エッジコンピューティング・CDN・IoT/M2M
- エッジコンピューティング=データの発生源(工場の制御装置・自動運転車等)の近くに処理拠点を置き、クラウドまでの往復遅延(RTT)を待たずにその場で処理を完結させるアーキテクチャ。すべてのデータをクラウドへ送って処理する集中型に比べ、低遅延が必須の制御・判断処理に向く一方、拠点ごとの機器・運用コストが増えるトレードオフがある。
- CDN(Content Delivery Network)=利用者の近くに配置したキャッシュサーバから静的コンテンツ(画像・動画・静的ページ等)を配信し、オリジンサーバへの負荷集中と配信遅延の両方を減らす技術。エッジコンピューティングが「処理」を近くで行うのに対し、CDNは「配信(既にあるコンテンツの複製)」を近くで行う点で目的が異なる。IoT/M2M(Machine to Machine)=多数のセンサー・機器が人手を介さず自動的にデータをやり取りする仕組みで、大量デバイスの同時接続効率(mMTC・Wi-Fi 6のOFDMA等)が設計上の要点になる。
ある工場が生産ラインの異常検知をクラウド上のAIモデルで行っているが、「異常を検知してからラインを停止するまでの反応時間が長すぎる」という課題を抱えているとします。原因を分析すると、センサーデータをクラウドへ送信し推論結果を受け取るまでの往復遅延(RTT)が、即座に停止すべき異常検知のタイムクリティカルな要求に対して大きすぎることが分かります。この場合の設計判断は「クラウドへの接続回線を専用接続に変えて遅延を減らす」ことではなく(専用接続でも物理的な距離に伴う遅延はゼロにはならない)、推論処理そのものを工場内(エッジ)に配置するエッジコンピューティングへの切替です。学習済みモデルを工場内のエッジサーバに配置し、センサーデータをその場で推論・判断することで、クラウドとの往復を待たずに停止指示を出せます。一方、この工場が全国の拠点向けに製品カタログの動画コンテンツを配信する用途では、話は逆になります——動画のような静的コンテンツの配信は、各拠点の近くにキャッシュを置くCDNが適切であり、エッジコンピューティングのように処理拠点を作る必要はありません(配信するだけで判断処理は不要なため)。さらに、工場内のセンサー群をクラウドのIoTプラットフォームと接続する際は、多数デバイスの同時接続効率を高めるため無線LAN側はWi-Fi 6(OFDMA)を使い、オンプレミスとクラウドVPCの接続は、制御データの重要性に鑑みて専用接続を選び、IPアドレス範囲がオンプレミスと重複しないよう事前にVPCのCIDRを設計します。ここで注意すべきひっかけは「エッジコンピューティングとCDNは両方とも『近くに置く』技術だから同じ」という誤解です——エッジは低遅延な処理の実行、CDNは既存コンテンツの配信という異なる目的であり、混同すると過剰な投資(不要なエッジ処理拠点の構築等)につながります。
| 技術 | 目的 | 向く要件 |
|---|---|---|
| 専用接続 | オンプレ-クラウド間の高品質接続 | 帯域保証・低遅延・高セキュリティ |
| エッジコンピューティング | データ発生源近くでの処理実行 | 即時判断が必要な制御 |
| CDN | 利用者近くからのコンテンツ配信 | 静的コンテンツの高速配信 |
ひっかけ: 「エッジコンピューティングとCDNは同じ『近くに置く』技術なので置き換え可能」は誤りです——エッジは低遅延処理の実行、CDNは既存コンテンツの配信であり目的が異なります。また「専用接続を使えばクラウドとの通信遅延を実質ゼロにできる」も誤り=専用接続は帯域保証・品質安定に優れますが、物理的な距離に伴う伝搬遅延そのものはゼロにできません。
4.4.4この節のまとめ
- IaaS/PaaS/SaaSは利用者の管理範囲がこの順に狭まる。専用接続は高品質高コスト、VPN接続は迅速安価でSLA弱
- VPCはオンプレとのIPアドレス重複回避が必須。エッジコンピューティングは低遅延処理、CDNは静的コンテンツ配信で目的が異なる
- IoT/M2Mは大量デバイスの同時接続効率(mMTC・OFDMA等)が設計の要点
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理解度チェック
(軽い確認用)Q1. 工場の生産ラインで、異常検知から停止までの反応時間が長すぎることが課題になっている。原因はクラウド上のAIモデルへ推論を依頼する際の往復遅延(RTT)であると判明した。最も適切な対処はどれか。
Q2. オンプレミスのネットワークとクラウドのVPCを接続する設計において、事前に必ず確認・調整すべき事項はどれか。
Q3. IaaS・PaaS・SaaSの管理範囲の違いに関する説明として最も適切なものはどれか。

