変更要約: 初版
4.2無線LANとモバイル
IEEE802.11規格の変遷(a/b/g/n/ac/ax(Wi-Fi 6))、周波数帯とチャネル、SSID、WPA2/WPA3による暗号化、ローミング、隠れ端末問題、そして5G/LTEモバイル通信を学び、電波干渉・セキュリティ要件を踏まえた無線環境設計の判断力を養います。
オフィスや工場に無線LANを導入するネットワーク設計者は、単に「新しい規格を選べばよい」のではなく、利用者数・端末密度・電波干渉源・セキュリティ要件という具体的な条件から、規格・周波数帯・チャネル設計・認証方式を組み合わせて最適化する必要があります。この節では、無線LANの規格とモバイル通信の特性を踏まえ、どのような無線環境設計が妥当かを判断する視点を養います。
4.2.1IEEE802.11規格とWi-Fi 6
- IEEE802.11規格は世代を追うごとに高速化・高効率化してきた:
802.11a/g(最大54Mbps)→802.11n(MIMO採用・最大600Mbps)→802.11ac(5GHz帯・MU-MIMO・最大数Gbps)→802.11ax(Wi-Fi 6)(2.4GHz/5GHz帯・OFDMA採用・多数端末の同時接続効率を大幅改善)。 - Wi-Fi 6(802.11ax)の核心は単純な最大速度の向上ではなくOFDMA(直交周波数分割多元接続)による多数端末が同時に接続する環境での効率改善にある。1つのチャネルを複数のリソースユニット(RU)に分割して複数端末に同時割当てすることで、IoT機器やスマートフォンが密集するオフィス・スタジアム等で真価を発揮する。Wi-Fi 6Eはこれを6GHz帯まで拡張し、混雑した2.4GHz/5GHz帯を避けたクリーンな帯域を利用できる。
4.2.2周波数帯・チャネルとWPA2/WPA3
- 2.4GHz帯は障害物に強く到達距離が長い反面、Bluetoothや電子レンジ等と干渉しやすく利用可能チャネル数が少ない(重複しないチャネルは実質3つ)。5GHz帯は干渉源が少なくチャネル数が多いが、障害物に弱く到達距離が短い。SSIDはネットワーク識別子で、同一SSIDを複数APに割り当ててローミング(端末が移動しながらAP間を切り替えても通信が途切れない)を実現する。
- WPA2は
AES-CCMPによる暗号化を必須とし長らく標準だったが、WPA3はSAE(Simultaneous Authentication of Equals)という新しい鍵交換方式を採用し、オフラインでの辞書攻撃(パスワード総当たり)に対する耐性を大幅に強化した点が最大の違い。個人向け(PSK方式)でも、事前共有した鍵が漏れても過去の通信を復号されにくい前方秘匿性(Forward Secrecy)を持つ点もWPA2からの重要な改善。
「Wi-Fi 6(802.11ax)=OFDMAで多数端末の同時接続効率を改善」「2.4GHz=到達距離長いが干渉多くチャネル少」「5GHz=チャネル多いが到達距離短い」「WPA3=SAEでオフライン辞書攻撃に強く前方秘匿性を持つ」が最頻出です。Wi-Fi 6を「単に速い規格」とだけ覚えないこと——多数端末同時接続の効率化が本質です。
4.2.3隠れ端末問題と5G/LTE
- 隠れ端末問題=2つの端末が互いの電波を検知できない位置関係にあるため、両方がAPに向けて同時送信し衝突(コリジョン)が発生する問題。無線LANはCSMA/CA(衝突回避)方式で送信前にキャリアセンスを行うが、隠れ端末同士は互いを検知できないため衝突を回避できない。RTS/CTS(送信要求/送信許可)のハンドシェイクを使うことで、APが仲介して衝突を防げる。
- 5GはeMBB(高速大容量)・URLLC(超高信頼低遅延)・mMTC(多数同時接続)の3ユースケースを掲げ、LTE(4G)に比べ大容量IoTや遠隔制御など無線LANでは代替しにくい広域移動体通信を担う。屋内外の広いエリアをカバーする用途では無線LANより5G/LTEが適し、限定エリア内での高スループット・低コスト運用には無線LANが適するというエリア特性の使い分けが設計の基本。
ある製造工場で、数百台のIoTセンサーと作業員のタブレット端末が同時に無線LANへ接続し、金属製の什器や機械が林立する環境で通信の安定性が課題になっているとします。まず規格選定では、単純な最大速度ではなく多数端末の同時接続効率が課題の核心であるため、OFDMAを備えたWi-Fi 6(802.11ax)を選定します。次に周波数帯設計では、金属什器による電波遮蔽・反射が多い環境のため2.4GHz帯(到達距離が長い)を補助的に併用しつつ、干渉が少なくチャネル数の多い5GHz帯を主系統とし、AP配置密度を上げて各APのカバー範囲を絞ることで、離れた2台の端末が互いを検知できず衝突する隠れ端末問題のリスクも下げます(併せてRTS/CTSを有効化)。セキュリティ面では、IoTセンサーの認証情報が漏えいした場合の被害を抑えるため、WPA3のSAEによるオフライン辞書攻撃耐性と前方秘匿性を採用します。ここで注意すべきひっかけは「Wi-Fi 6を導入すれば速度が上がるので端末密度の問題も自動的に解決する」という誤解です——Wi-Fi 6の効果はOFDMAによる同時接続効率化であり、AP配置・周波数帯設計・隠れ端末対策までを含めた総合設計をして初めて効果が発揮されます。また、工場敷地全体で作業員が屋外の広いエリアを移動しながら通信する用途には、無線LANのAP増設ではなく5G(またはLTE)のプライベート網を検討するというエリア特性に応じた判断も重要です。
| 項目 | 2.4GHz帯 | 5GHz帯 |
|---|---|---|
| 到達距離 | 長い | 短い |
| 干渉源 | 多い(Bluetooth等) | 少ない |
| 利用可能チャネル数 | 少ない(重複なしで約3) | 多い |
ひっかけ: 「Wi-Fi 6は単に最大通信速度が上がっただけの規格である」は誤りです——OFDMAによる多数端末同時接続時の効率改善が本質的な進化点です。また「隠れ端末問題はAPの電波出力を上げれば必ず解決する」も誤り=端末同士が互いを検知できない位置関係が原因のため、出力を上げても解決せず、RTS/CTSやAP配置の見直しが有効な対策です。
4.2.4この節のまとめ
- Wi-Fi 6(802.11ax)はOFDMAで多数端末の同時接続効率を改善する規格
- 2.4GHz=到達距離長いが干渉多・チャネル少、5GHz=チャネル多いが到達距離短、WPA3はSAEで辞書攻撃耐性強化
- 隠れ端末問題はRTS/CTSやAP配置見直しで対処、広域移動体は5G/LTEとエリア特性で使い分ける
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理解度チェック
(軽い確認用)Q1. 数百台のIoTセンサーとタブレット端末が同時に無線LANへ接続するオフィスで、通信の切断や遅延が課題になっている。単純な最大速度ではなく多数端末が同時接続する状況での効率を最も改善する規格はどれか。
Q2. ある無線LAN環境で、互いに離れた位置にある2台の端末が相手の電波を検知できず、同時にアクセスポイントへ送信して衝突が発生している。この問題への対策として最も適切なものはどれか。
Q3. IoT機器の認証情報が漏えいした場合の被害を最小限に抑えたい無線LANのセキュリティ設計として、WPA2からWPA3へ移行する最大の理由はどれか。

