変更要約: 初版
1.1ネットワークの構成要素とトポロジ
ルータ・L2/L3スイッチ・次世代ファイアウォール(NGFW)・IPS・APとWLC・エンドポイント・サーバ・PoEといった構成要素の役割、2-tier/3-tier/スパイン・リーフなどのトポロジ、SOHOやWAN、オンプレミス対クラウドの使い分けを、「この要件にはどの機器・どの構成が適切か」という設計判断として学びます。
CCNAはネットワーク技術者の登竜門で、単に用語を暗記する試験ではなく、目の前の要件に対してどの機器を選び、どう構成し、障害時にどこを疑うかを問う試験です。この節ではまず「登場人物」=ネットワークを構成する機器とその役割、そしてそれらをどう並べるか(トポロジ)を、実務の設計判断として整理します。「ルータとスイッチのどちらが必要か」「ファイアウォールとIPSは何が違うのか」を、機能の言葉ではなく解決したい課題から選べるようになるのが目標です。
1.1.1機器の役割
- ルータ=異なるネットワーク(サブネット)間でパケットをIPアドレスに基づき転送するL3機器。ブロードキャストドメインの境界となり、WAN接続やサブネット間ルーティングを担う。一方L2スイッチは同一セグメント内でMACアドレスに基づきフレームを高速転送し、L3スイッチはスイッチングにルーティング機能を統合してVLAN間ルーティングを高速に行う。
- 次世代ファイアウォール(NGFW)=従来のポート/プロトコルベースの制御に加え、アプリケーション識別・ユーザ識別・侵入防御などを統合したセキュリティ機器。IPS(侵入防御システム)はトラフィックを検査し既知の攻撃パターンを検知して遮断する(検知のみのIDSと異なりインラインで能動的に止める)。NGFWにはIPS機能が内蔵されることが多い。
- AP(アクセスポイント)=無線クライアントを有線LANに橋渡しするL2機器。多数のAPを集中管理する場合はWLC(ワイヤレスLANコントローラ)を置き、AP設定・RF管理・クライアント制御を一元化する(split-MACアーキテクチャ)。エンドポイント(PC・スマホ・IP電話等)やサーバは通信の始点/終点となるホストである。
- PoE(Power over Ethernet)=LANケーブル1本で通信と給電を同時に行う仕組み。APやIP電話・監視カメラを電源工事なしで設置できる。規格により供給電力が異なり、802.3af(最大約15.4W)→802.3at(PoE+・約30W)→802.3bt(PoE++・最大約60〜100W)と増える。給電機器(スイッチ側=PSE)と受電機器(PD)の規格整合を確認する必要がある。
1.1.2トポロジと設計モデル
- 3-tier(3階層)=アクセス層(エンドポイント収容)・ディストリビューション層(ポリシー適用・集約)・コア層(高速バックボーン)に分ける古典的な企業LAN設計。規模が大きいほど階層分離による拡張性・保守性が効く。2-tier(collapsed core)はディストリビューションとコアを1層に統合したもので、中小規模で階層を減らしコストを抑える。
- スパイン・リーフ=データセンタ向けの2層トポロジ。全てのリーフ(サーバ収容スイッチ)が全てのスパイン(バックボーン)に接続し、どのサーバ間も必ず等しいホップ数(一定の低遅延)で到達できる。仮想化/クラウドで支配的な東西(サーバ間)トラフィックに適する。SOHOは小規模拠点/在宅を1台のルータ兼スイッチ兼APで賄う構成、WANは地理的に離れた拠点間を結ぶ広域接続。
1.1.3オンプレミスとクラウド
- オンプレミス=機器やサーバを自社の設備内に設置し、自組織で保守・運用する形態。初期投資(CAPEX)が大きい代わりに、機器やデータを完全に自社統制下に置ける。クラウドは事業者のインフラを使った分の課金(OPEX)で利用し、需要に応じた即応的なスケールと運用負荷の低減が利点。
- 実務では二者択一ではなく、機密データや低遅延要件はオンプレ、変動負荷や災害対策はクラウドというハイブリッドが一般的。判断軸はコスト構造・統制/コンプライアンス・拡張速度・可用性要件であり、単に「新しいからクラウド」ではない。
「ルータ=L3でサブネット間/ブロードキャストドメイン境界」「L2スイッチ=同一セグメントのフレーム転送」「IPSは遮断・IDSは検知のみ」「WLCが多数APを集中管理(split-MAC)」「PoEはデータと給電を1本で・規格でW数が違う」「スパイン・リーフは等ホップの東西トラフィック向け」が頻出です。役割を課題ベースで選べるように練習しましょう。
あなたは中小企業のオフィス移転にあたりネットワークを設計しています。要件は「3フロア・約120台のPCと、天井に設置する30台の無線AP、フロアごとにVLANを分けて部門間はルーティングで制御、外部からの攻撃を能動的に遮断」です。まず各フロアのエッジには多数のエンドポイントとAPを収容するアクセス層スイッチが要りますが、天井のAPに個別電源を引くのは非現実的なのでPoE対応スイッチ(AP消費電力から802.3at/PoE+以上)を選定します。フロアをまたぐVLAN間ルーティングは、各フロアのL2スイッチをルータに集約するよりL3スイッチ(ディストリビューション相当)に集約したほうが高速で、120台規模なら2-tier(collapsed core)で十分と判断できます。30台のAPは1台ずつ手設定すると設定ドリフトが起きるためWLCで集中管理します。「外部からの攻撃を能動的に遮断」という要件は、検知だけのIDSでは満たせず、インラインで遮断するIPS機能を持つNGFWを境界に置くのが妥当です。ここで「全部入りだからコアルータを別途立ててフルの3-tierにしよう」と考えるのは過剰で、拠点規模と将来の拡張見込みに対して階層とコストのバランスを欠きます。要件(規模・VLAN・給電・集中管理・能動遮断)の一つひとつが、どの機器・どのトポロジを選ぶかの判断根拠になっている点が重要です。
| 機器 | 動作層 | 主な役割 | 選定のヒント |
|---|---|---|---|
| ルータ | L3 | サブネット間/WANのパケット転送 | 拠点間接続・少数の高機能ルーティング |
| L2スイッチ | L2 | 同一セグメントのフレーム高速転送 | エンドポイント/AP収容(アクセス層) |
| L3スイッチ | L2+L3 | VLAN間ルーティングを高速に統合 | 複数VLANの集約(ディストリビューション) |
| NGFW/IPS | L3〜L7 | 攻撃の検知と能動的遮断 | 境界セキュリティ・アプリ識別が必要 |
| WLC | L2/管理 | 多数APの集中管理(split-MAC) | AP台数が多く一元管理したい |
ひっかけ: 「攻撃を検知するためにIDSを入れれば通信も遮断できる」は誤りです——IDSは検知/通知のみで遮断はしません。インラインで能動的に遮断するのはIPS(多くはNGFWに内蔵)です。また「L2スイッチはVLAN間の通信もそのままルーティングできる」も誤り=L2スイッチにL3のルーティング機能はなく、VLAN間ルーティングにはL3スイッチかルータが必要です。
1.1.4この節のまとめ
- ルータはL3でサブネット/ブロードキャストドメイン境界、L2スイッチは同一セグメントのフレーム転送、L3スイッチはVLAN間ルーティングを高速統合
- IPSは能動遮断(IDSは検知のみ)、WLCは多数APを集中管理、PoEはデータと給電を1本で(規格でW数が異なる)
- トポロジは規模で選ぶ:中小は2-tier、大規模は3-tier、データセンタの東西トラフィックはスパイン・リーフ。オンプレ/クラウドはコスト構造と統制/拡張要件で判断
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理解度チェック
(軽い確認用)Q1. 3フロア・約120台のPCと天井設置の無線APを収容し、フロアごとにVLANを分けて部門間はルーティングで制御したい。APには個別に電源を引けない。アクセス層の機器選定として最も適切なものはどれか。
Q2. セキュリティ担当から「既知の攻撃パターンに一致する通信をリアルタイムで検知するだけでなく、その場で遮断してほしい」という要件が出た。この要件を満たす機器の役割として最も適切なものはどれか。
Q3. データセンタで、多数のサーバ間(東西方向)の通信がどのサーバ対でも一定の低遅延で行えることが重要になった。この要件に最も適したトポロジはどれか。

