変更要約: 初版
2.1ルーティングの基礎
ルーティングテーブルの参照方法、静的ルーティングと動的ルーティングの使い分け、経路が複数一致するときのロンゲストマッチ、既定の出口となるデフォルトルート、経路のコストを表すメトリック、そして複数の経路情報源を比較するAD(アドミニストレーティブディスタンス)を学びます。
ネットワーク設計者にとって「パケットをどの経路で送るか」を決めるルーティングは、可用性・コスト・運用負荷のトレードオフそのものです。小規模な拠点間接続なら静的ルーティングで十分なこともあれば、経路が頻繁に変わる大規模網では動的ルーティングでなければ障害復旧が追いつきません。この節では、ルータが実際に「次にどこへ転送するか」をどう決定しているかというルーティングテーブルの参照ロジックを土台に、静的/動的をどう使い分けるかという設計判断を学びます。
2.1.1ルーティングテーブルとロンゲストマッチ
- ルーティングテーブル=宛先ネットワークごとに「どのインタフェース/次ホップへ転送するか」を記録した表。ルータはパケットの宛先IPアドレスをこの表と照合し、転送先を決定する。
- 宛先が複数の経路エントリに一致する場合、ロンゲストマッチ(最長一致)=サブネットマスクが最も長い(=最も限定的な)経路が優先される。例えば
10.0.0.0/8と10.1.1.0/24の両方に一致するなら/24の経路が選ばれる。 - デフォルトルート(
0.0.0.0/0)=どの経路にも一致しなかったパケットの最終的な出口として使われる、最もマスク長が短い(=最も曖昧な)経路。インターネット向けの出口や、経路情報を持たない末端拠点で設定される。
2.1.2静的ルーティングと動的ルーティング
- 静的ルーティング=管理者が経路を手動で設定する方式。設定がシンプルでルータの処理負荷も低く、経路が予測可能(セキュリティ的にも経路変更がない安心感がある)だが、回線障害時に自動で迂回できず、拠点数が増えるほど設定・保守の手間が指数的に増える。
- 動的ルーティング=ルーティングプロトコルにより、ルータ同士が経路情報を自動的に交換・学習する方式。リンク障害時に自動で迂回経路へ切り替わる(収束)反面、プロトコルの設計・パラメータ調整が必要でルータの処理・帯域の負荷も高い。
2.1.3メトリックとAD(アドミニストレーティブディスタンス)
- メトリック=同一プロトコル内で複数経路の優劣を比較する尺度(RIPならホップ数、OSPFなら帯域幅ベースのコスト)。値が小さいほど優先される経路とみなされる。
- AD(アドミニストレーティブディスタンス)=異なる情報源(静的経路/複数の動的ルーティングプロトコル)から学習した経路同士を比較するための信頼度の指標。値が小さいほど信頼される(例:直接接続0、静的経路1、OSPF110、RIP120)。同じ宛先を複数のプロトコルが学習した場合、ADが最小の経路のみがルーティングテーブルに採用される。
「ロンゲストマッチ=マスクが最も長い経路を優先」「メトリック=同一プロトコル内の比較」「AD=異なる情報源間の比較」の3点セットが最頻出です。「メトリックとADは同じもの」という混同がよくある誤りなので、メトリックはプロトコル内、ADはプロトコル間という軸の違いを必ず区別しましょう。
ある企業ネットワークの設計者が、本社と3拠点(支店A・B・C)を結ぶ経路をどう構成するか検討しています。支店Cは今後拡張予定がなく回線も1本のみの小規模な末端拠点なので、本社への経路は0.0.0.0/0のデフォルトルートを静的に設定するだけで十分——障害時に迂回する経路自体が存在しないため、動的ルーティングを導入しても運用の手間が増えるだけで得るものがありません。一方、支店Aと支店Bの間には冗長化された2本の回線があり、片方が切れても自動的に迂回させたいという要件があるため、動的ルーティング(OSPF等)を導入し、回線障害時に自動で収束させる設計が妥当です。さらに、本社ルータには静的経路(AD=1)とOSPFで学習した同じ宛先への経路(AD=110)が同時に存在する場合を考えます。静的経路の方がADが小さい(=信頼度が高い)ため、OSPFが実際には有効な迂回経路を学習していても静的経路が優先されてしまい、障害時にOSPFの迂回経路へ切り替わらないという設計ミスが起こり得ます。これを避けるには、意図的にバックアップ用の静的経路のADをOSPFより大きく(例えばfloating static routeとしてAD=200等に)設定し、通常時はOSPFの経路を、OSPFが経路情報を失ったときだけ静的経路にフォールバックするようにADを設計します。このように、ルーティング設計は「経路が変わる頻度」「冗長化の要否」「複数の情報源が競合したときにどちらを信頼させたいか」という3つの判断軸で決まります。
| 経路の情報源 | 既定AD | 比較の軸 |
|---|---|---|
| 直接接続 | 0 | 最優先(同一AD同士はメトリックで比較しない) |
| 静的経路 | 1 | 管理者の明示的な信頼 |
| OSPF | 110 | 動的プロトコル間で比較 |
| RIP | 120 | 動的プロトコル間で比較 |
ひっかけ: 「メトリックが小さい経路とADが小さい経路は常に同じ経路を指す」は誤りです——ADは同じ宛先に複数の情報源(静的/OSPF/RIP等)が存在するときにどの情報源を採用するかを決め、メトリックはその採用された情報源の中でどの経路が最良かを決めるという別の階層の判断です。また「動的ルーティングを導入すれば静的ルーティングより常に望ましい」も誤り=変化がほぼない末端拠点では静的ルーティングの方が運用負荷・攻撃面ともに小さく合理的です。
2.1.4この節のまとめ
- ロンゲストマッチ=最もマスクが長い経路を優先、一致がなければデフォルトルート(
0.0.0.0/0)を使う - 静的ルーティング=小規模・変化が少ない拠点向き、動的ルーティング=冗長化・自動迂回が要る拠点向き
- メトリック=同一プロトコル内の経路比較、AD=異なる情報源間の信頼度比較(値が小さいほど優先)
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理解度チェック
(軽い確認用)Q1. ルータのルーティングテーブルに `10.0.0.0/8` 経由の経路と `10.1.1.0/24` 経由の経路が両方存在する場合、宛先 `10.1.1.5` 宛のパケットはどちらの経路で転送されるか。その根拠として最も適切なものはどれか。
Q2. 本社と3か所の支店を結ぶネットワークを設計している。支店Cは今後の拡張予定がなく、本社への回線も1本のみである。この支店Cへのルーティング設計として最も妥当なものはどれか。
Q3. あるルータに、同じ宛先ネットワークに対する静的経路(AD=1)とOSPFで学習した経路(AD=110)が同時に存在する。OSPF側が実際には有効な迂回経路になり得る場合、この構成で起こり得る問題として最も適切なものはどれか。

