変更要約: 初版
2.2動的ルーティングプロトコル
ホップ数で経路を評価するディスタンスベクタ型(RIP)、リンク状態をフラッディングして最短経路木を計算するリンクステート型(OSPF・エリア・LSA・コスト)、AS間の経路制御を担うパスベクタ型(BGP・AS・eBGP/iBGP・経路属性)、そして組織内で使うIGPと組織間で使うEGPの違いと収束の速さを学びます。
動的ルーティングプロトコルは「経路情報をどう集め、どう最適経路を決めるか」というアルゴリズムの違いによって、収束の速さやスケーラビリティが大きく異なります。ネットワーク設計者は、対象ネットワークの規模(数台の拠点か、数百台のルータを抱える全社網か)と、組織内で完結するか組織間(他社・ISP)をまたぐかによって、RIP・OSPF・BGPのいずれを採用すべきかを判断しなければなりません。
2.2.1ディスタンスベクタ型(RIP)
- ディスタンスベクタ型=隣接ルータから「宛先までの距離(ホップ数)と方向」だけを聞いて経路表を作る方式。各ルータはネットワーク全体のトポロジを知らず、隣接ルータの申告を信じて経路を組み立てる(「噂を聞いて経路を決める」に近い)。
- RIPの代表実装は最大ホップ数15(16は到達不能扱い)というメトリックの上限があり、大規模ネットワークには不向き。定期的な経路情報の全体交換(フラッディング)で更新するため収束が遅く、小規模ネットワーク向けの古典的プロトコル。
2.2.2リンクステート型(OSPF)
- リンクステート型=各ルータが自身のリンク状態(隣接関係・帯域幅等)をLSA(リンクステート広告)として全ルータへフラッディングし、全ルータが同一のネットワーク全体地図(トポロジデータベース)を持った上で、それぞれがDijkstra法(最短経路木)で最適経路を独自に計算する方式。
- OSPFのコストは既定で
コスト = 基準帯域幅 ÷ インタフェースの帯域幅(基準帯域幅の既定値は100Mbps)で計算され、帯域幅が大きいほどコストは小さく優先される経路になる。複数の等コスト経路には負荷分散(ECMP)も可能。 - 大規模網では全ルータが単一のLSAデータベースを持つと負荷が過大になるため、エリアに分割して階層化する。エリア0(バックボーンエリア)を中心に他のエリアを接続し、エリア内のLSAフラッディングを局所化することで収束を速め、ルータの計算負荷を抑える。
「RIP=ホップ数・最大15・収束遅い」「OSPF=帯域幅ベースのコスト・LSAで全ルータが同一トポロジを保持・エリアで階層化」が最頻出です。OSPFのコスト計算式 基準帯域幅÷インタフェース帯域幅 は具体的な数値で検算できるようにしておきましょう(例:基準100Mbpsで10Mbps回線ならコスト10)。
2.2.3パスベクタ型(BGP)とIGP/EGP
- BGP=AS(自律システム)間で経路情報を交換するパスベクタ型プロトコル。経路情報に「通過したASの並び(ASパス)」を含めて広告するため、ループの検出が容易(自分のAS番号が経路中に現れたら破棄する)で、インターネット全体の経路制御を担う唯一の実用プロトコル。
- eBGP=異なるAS間で確立するBGPセッション(AS境界ルータ同士)。iBGP=同一AS内のルータ間で確立するBGPセッション(AS内で受け取った外部経路情報を伝播させるために使う)。両者は同じBGPプロトコルだが確立する相手がAS内か外かで役割が異なる。
- BGPの経路選択は単純なメトリックではなく経路属性(ASパス長・ローカルプリファレンス・MED等)を段階的に比較する複雑なアルゴリズムで決まる。単純に「最も近い経路」ではなく、ポリシー(商用契約・優先関係)を反映した経路制御ができる点がIGPとの本質的な違い。
- IGP(内部ゲートウェイプロトコル)=RIP・OSPFなど組織内(同一AS内)で使うプロトコルの総称。EGP(外部ゲートウェイプロトコル)=BGPなど組織間(AS間)で使うプロトコルの総称。「経路をどこまで届けるか」の境界がAS境界と一致する。
あるISPの設計者が、社内網(AS 65001)と顧客企業のネットワーク、さらにインターネット全体との接続を設計しています。社内の数十台のルータ間では、リンク障害発生時に数秒〜数十秒で収束してほしいという要件があるため、フラッディングと全体トポロジ共有で高速に再計算できるOSPFをIGPとして採用し、拠点数の多さと帯域幅の多様性を考慮して大規模エリアを複数のエリアに分割します。一方、他社ISPや顧客企業とインターネット経由で経路を交換する部分は、AS番号を持つ組織同士の経路制御が必要になるためBGP(EGP)を使い、他社ASとの境界にはeBGPセッションを、自社AS内でその外部経路情報をルータ間に伝えるにはiBGPセッションを設定します。ここでBGPの経路選択が単純な最短経路にならない例を考えます——同じ宛先への経路を2つの上流ISP(ISP-Xと ISP-Y)の両方から受け取った場合、ASパス長ではISP-X経由の方が短くても、ローカルプリファレンスを高く設定したISP-Y経由の経路が優先されることがあります。これは「回線コストが安い」「契約上優先したい」といった商用ポリシーをBGPが経路選択に組み込めるからで、IGP(OSPF等)が純粋に技術的なコスト・帯域幅だけで経路を選ぶのとは対照的です。このように、社内で完結し高速な収束が欲しいならIGP(RIP/OSPF)、AS間でポリシーに基づいた経路制御が要るならEGP(BGP)という判断軸で使い分けます。
| プロトコル | 分類 | 経路評価の基準 | 主な適用範囲 |
|---|---|---|---|
| RIP | ディスタンスベクタ(IGP) | ホップ数(最大15) | 小規模組織内 |
| OSPF | リンクステート(IGP) | 帯域幅ベースのコスト | 中〜大規模組織内 |
| BGP | パスベクタ(EGP) | 経路属性(ASパス長/ローカルプリファレンス等) | AS間・インターネット全体 |
ひっかけ: 「BGPは常にASパスが最短の経路を選ぶ」は誤りです——ローカルプリファレンスなど、ASパス長より優先される経路属性が複数あり、商用ポリシーによって最短でない経路が選ばれることが普通にある(本文のISP例参照)。また「OSPFのコストはホップ数で決まる」も誤り=OSPFのコストは既定で帯域幅ベース(基準帯域幅÷インタフェース帯域幅)であり、ホップ数で評価するのはRIPです。この2つの取り違えは頻出の誤りです。
2.2.4この節のまとめ
- RIP=ホップ数(最大15)のディスタンスベクタ型、OSPF=帯域幅ベースのコストのリンクステート型(エリアで階層化)
- BGP=AS間のパスベクタ型。経路属性(ローカルプリファレンス等)でポリシー反映の経路選択ができる
- 組織内はIGP(RIP/OSPF)で高速収束、組織間はEGP(BGP)でポリシー制御という判断軸で選ぶ
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理解度チェック
(軽い確認用)Q1. 社内に数十台のルータを抱える中規模ネットワークで、リンク障害発生時に数秒〜数十秒程度で経路を再収束させたいという要件がある。最も適したルーティングプロトコルの分類とその理由はどれか。
Q2. あるISPが、自社AS内の経路情報を外部から受け取った上でAS内の全ルータへ伝播させたい。この目的で確立すべきBGPセッションの種類として最も適切なものはどれか。
Q3. ある拠点が同一宛先への経路を2つの上流ISP(ASパス長が短いISP-Xと、ASパス長が長いISP-Y)の両方から受信した。BGPの設定でISP-Y経由の経路にISP-Xより高いローカルプリファレンスを与えた場合、実際に採用される経路とその理由として最も適切なものはどれか。

