変更要約: 初版
5.3QoSと帯域制御
音声・映像トラフィックの品質を守るためのQoSの必要性、優先度に応じてキューを分ける優先制御(プライオリティキューイング)、送信レートを制御するシェーピングとポリシング、標準化された優先度マーキングのDiffServ(DSCP)とIntServ、そしてネットワーク全体の破綻を防ぐ輻輳制御を学びます。
同じネットワーク回線をファイル転送とVoIP通話が共有すると、大量のファイル転送トラフィックがVoIPパケットを待たせてしまい、通話が途切れる恐れがあります。QoS(Quality of Service)は、このように性質の異なるトラフィックが混在する状況で、優先すべき通信を優先的に処理するための一連の技術です。この節では、限られた帯域の中で音声・映像の品質をどう保証するかという設計判断を軸に学びます。
5.3.1QoSの必要性
- ベストエフォート型のIPネットワークは、本来「届く順番・タイミングを保証しない」設計であるため、輻輳時には全トラフィックが平等に遅延・ロスの影響を受ける。しかし音声・映像のようなリアルタイム系トラフィックは遅延・ジッタ・パケットロスに敏感(数百ミリ秒の遅延やロスが体感品質を大きく損なう)な一方、ファイル転送は多少の遅延には耐性がある(最終的に完了すればよい)。この特性差を無視して均等に扱うと、リアルタイム通信の品質が犠牲になる。
5.3.2優先制御(プライオリティキューイング)
- 優先制御(プライオリティキューイング)=トラフィックを優先度別に複数のキューへ振り分け、高優先度キューを先に処理する方式。厳格優先(Strict Priority)は高優先度キューが空になるまで低優先度キューを一切処理しないため、高優先度トラフィックの品質は最大限守られる一方、高優先度トラフィックが多いと低優先度キューが飢餓状態(スタベーション)に陥るリスクがある。
- スタベーションを避けたい場合は、各キューに帯域の重み付けを割り当てて処理するWFQ(Weighted Fair Queuing)等の方式を使い、高優先度を優遇しつつも低優先度キューにも一定の処理機会を保証する設計にする。VoIPのように遅延に厳しい要件には厳格優先、業務システム間で複数の重要度が混在する場合はWFQが適する、というようにトラフィックの特性と許容範囲で使い分ける。
5.3.3帯域制御(シェーピングとポリシング)
- シェーピング=規定の帯域を超えたトラフィックをバッファに一時的に蓄積し、送出タイミングを平滑化して送信する制御方式。パケットを破棄しないため送信元のトラフィックを保全できるが、バッファリングにより遅延が増加するトレードオフがある。契約帯域の遵守や、バースト的な送信を平準化したい場合に使う。
- ポリシング=規定の帯域を超えたトラフィックを即座に破棄(または再マーキング)する制御方式。バッファリングしないため遅延は増えないが、超過分のパケットはロスする。遅延に敏感なリアルタイム通信の入口で「契約超過分は問答無用で捨てる」といった用途に向く一方、TCP通信では破棄が再送を誘発しさらなる輻輳を招くこともある。
「シェーピング=バッファリングして平滑化(遅延増・ロスなし)」「ポリシング=超過分を即破棄(遅延増なし・ロスあり)」の対比が最頻出です。「厳格優先=低優先度がスタベーションしうる」「WFQ=重み付けで低優先度にも機会を保証」も併せて押さえましょう。
あるオフィスの拠点間VPN回線(契約帯域10Mbps)で、通常の業務通信に加えてビデオ会議(要求帯域2Mbps・遅延200ミリ秒以内・パケットロス1%未満)を新たに常時運用したいとします。まずDiffServ(DSCP)でビデオ会議のパケットに高優先度のマーキング(例:EF=Expedited Forwarding)を行い、ルータ側で優先制御(キューイング)の対象として識別できるようにします。次にキューイング方式を選ぶ際、ビデオ会議は遅延要件が厳しい(200ミリ秒以内)ため、他の低優先度トラフィックに待たされることを避けたく厳格優先(Strict Priority)を採用します。ただし、厳格優先だけでは低優先度の業務通信が飢餓状態に陥りかねないため、厳格優先キューは合計で契約帯域の一部(例えば3Mbps相当)に制限し、残りは低優先度トラフィック用に確保するという設計にします。さらに、この制限を実現する手段として、ビデオ会議用トラフィックの入口にポリシングを設定し、3Mbpsを超えるビデオトラフィック(想定外の複数会議同時開催等)は即座に破棄して他のトラフィックへの影響を防ぎます。一方、ファイルバックアップのような遅延に寛容なバルク転送にはシェーピングを適用し、契約帯域の残り枠に収まるようバッファリングで送出タイミングを平滑化することで、パケットロスによる再送の連鎖を避けます。このように、リアルタイム性が要求されるトラフィックには「優先制御+ポリシングで超過を即座に遮断」、遅延に寛容なバルク転送には「シェーピングで平滑化」という具合に、トラフィックの性質ごとに複数のQoS技術を組み合わせるのが実務の設計判断です。
| 技術 | 超過分の扱い | 遅延への影響 | 向いている用途 |
|---|---|---|---|
| シェーピング | バッファに蓄積し平滑化(破棄しない) | 増加する | 遅延に寛容なバルク転送 |
| ポリシング | 即座に破棄(または再マーキング) | 増加しない | 遅延に敏感なリアルタイム通信の入口制御 |
| 厳格優先キューイング | (帯域超過ではなくキュー処理順の話) | 高優先度は最小化 | 遅延要件が最も厳しいトラフィック |
ひっかけ: 「シェーピングとポリシングはどちらも超過トラフィックを即座に破棄する」は誤りです——破棄するのはポリシングで、シェーピングはバッファリングして送出タイミングを平滑化し破棄しません(その代わり遅延が増える)。また「厳格優先キューイングを使えば低優先度トラフィックにも公平に帯域が配分される」も誤り=厳格優先は高優先度キューが空でない限り低優先度を処理しないため、公平な配分にはWFQ等の重み付け方式が必要です。
5.3.4この節のまとめ
- QoSは音声・映像等のリアルタイムトラフィックを遅延/ジッタ/ロスから守るための優先処理。DiffServ(DSCP)でマーキングして識別する
- 厳格優先は高優先度を最大限守るが低優先度がスタベーションしうる。WFQは重み付けで低優先度にも機会を保証
- シェーピング=バッファリングで平滑化(遅延増・ロスなし)、ポリシング=超過分を即破棄(遅延増なし・ロスあり)
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理解度チェック
(軽い確認用)Q1. 拠点間VPN回線でビデオ会議を新たに常時運用するにあたり、遅延200ミリ秒以内という厳しい要件を最優先で満たしたい。他の低優先度トラフィックとの共存を考慮しつつ採用すべきキューイング方式として最も適切なものはどれか。
Q2. ビデオ会議トラフィックの入口で、契約した3Mbpsを超える分は即座に遮断し他のトラフィックへの影響を防ぎたい。遅延を増やしたくない場合に採用すべき帯域制御はどれか。
Q3. 遅延には寛容だが契約帯域を超えるとパケットロスによる再送の連鎖が問題になりやすいファイルバックアップ用トラフィックに最も適した帯域制御はどれか。

