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第1章 · アーキテクチャ·v1.0.0·更新 2026/7/20·読了目安 約19分

変更要約: 初版

1.3Cisco SD-Access

この節の要点

制御プレーンのLISP(EIDとRLOCのマッピング)、データプレーンのVXLAN(L2 over L3カプセル化)、ポリシーのCisco TrustSec/SGTという三層構造と、アンダーレイオーバーレイの役割分担、そして従来キャンパスとの相互接続点であるファブリックボーダーを、「どこで何が起きているのか」を切り分ける診断として学びます。

従来のキャンパスでは、「どの部署に属するか」を VLAN で表し、「どこへ通してよいか」を IP アドレスベースの ACL で表していました。この方式は、席替えや無線移動で端末の位置が変わるたびに VLAN と ACL を追随させる必要があり、規模が大きいほど破綻します。Cisco SD-Access は、「誰か(ポリシー)」と「どこにいるか(位置)」を切り離すことでこの問題を解きます。位置の解決は LISP、運搬は VXLAN、ポリシーは SGT と、役割が明確に3つに分かれている点が理解の鍵です。

1.3.1三層の役割分担

  • LISP(Locator/ID Separation Protocol)制御プレーン。端末の識別子である EID と、その端末が現在ぶら下がっているファブリックノードの位置である RLOC を分離し、マッピングデータベースで対応づける。エッジノードは宛先 EID の RLOC をマップサーバに問い合わせて解決するため、端末が別のエッジへ移動しても IP を変えずに済む。従来のように全ノードが全経路を保持する必要がないので、経路表の肥大も抑えられる。
  • VXLANデータプレーン。オリジナルのL2フレームを UDP/IP でカプセル化して(VNI でセグメントを識別し、UDP ポート 4789 を使用)アンダーレイのL3網を越えて運ぶ。VLAN ID の12ビット(4094)という上限に対し、VNI は24ビットで約1600万セグメントを識別できるため、大規模なマルチテナント分離に耐える。SGT も VXLAN ヘッダに載って一緒に運ばれる点が重要。
  • Cisco TrustSecSGT(Security Group Tag)ポリシープレーン。認証時に端末へグループを表す SGT を付与し、通信可否を「送信元SGT × 宛先SGT」のマトリクスで表現する。IPアドレスやVLANに依存しないため、端末が移動してもポリシーが追随する。ポリシーの定義と配布は Cisco Identity Services Engine(ISE)が担い、Catalyst Center(旧 DNA Center)がファブリック全体の自動化・可視化を担当する。

1.3.2アンダーレイとオーバーレイ

  • アンダーレイ=物理的なIP到達性を提供する土台のネットワーク。ファブリックノード同士がルーテッドリンクで結ばれ、IGP(通常 IS-IS や OSPF)でループフリーな到達性を確立する。ここでは端末のIPは扱わず、あくまで RLOC 間が届くことだけを保証する。アンダーレイが不安定ならオーバーレイは必ず不安定になるため、切り分けは常にアンダーレイから行う。
  • オーバーレイ=アンダーレイの上に VXLAN で構築される論理ネットワーク。端末はここに収容され、物理配線や VLAN の制約を受けずに同一セグメントに見える。「pingが通らない」という症状でも、アンダーレイのRLOC間は通るがオーバーレイのEID間は通らないというケースがあり、この差分がLISPのマッピングやポリシー側の問題を示唆する。
  • ファブリックノードの役割:エッジノード(端末を収容し EID を登録・カプセル化/デカプセル化を行う)、コントロールプレーンノード(LISP のマップサーバ/マップリゾルバとして EID-RLOC 対応を保持)、ボーダーノード(ファブリック外部との出入口)。症状がどのノードの責務に対応するかで疑う場所が決まる。

1.3.3従来キャンパスとの相互運用

  • ファブリックと従来のVLAN/ACLベースのネットワーク(既存サーバ室・WAN・インターネット出口など)は、ファブリックボーダー(ボーダーノード)で相互接続する。ここがVXLANカプセル化の終端であり、外部へ出るトラフィックはデカプセル化されて通常のIPパケットに戻る。移行期には「新棟はファブリック、既存棟は従来構成」という併存が普通で、ボーダーが両者の翻訳点になる。
  • ボーダーを越えると SGT がそのままでは運べない点が実務上の落とし穴。SGT はVXLANヘッダ(またはインラインタギング)で運ばれるため、それらに非対応の従来網へ出るとタグが失われる。SXP(SGT Exchange Protocol) でIP-SGT対応を伝搬させるなどの手当てをしないと、ファブリック内では効いていたグループベースのポリシーが外部で効かなくなる
試験ポイント

「制御プレーン=LISP(EIDとRLOCのマッピング)」「データプレーン=VXLAN(L2 over L3・VNIは24ビット・UDP4789)」「ポリシー=TrustSec/SGT(IPやVLANに依存しない)」「アンダーレイ=物理到達性(IGP)/オーバーレイ=VXLANの論理網」「ファブリックボーダー=従来キャンパスとの相互接続点かつVXLAN終端」が頻出です。役割の取り違え(LISPがカプセル化する、VXLANがマッピングする、など)を突く設問が定番なので、制御=LISP/転送=VXLANの対応を確実にしましょう。

あなたは新棟をSD-Accessファブリックで構築し、既存棟は従来のVLAN/ACL構成のまま運用しています。稼働後、「新棟の営業部の端末から、既存棟のサーバ室にある業務サーバへアクセスすると、接続はできるがACLで想定していた制限が効いていない」という報告が上がりました。ここで「SGTのポリシー定義が間違っている」と決めつけて ISE のマトリクスを修正しにいくのは早計です。まず確認すべきは、そのトラフィックがどこでVXLANカプセル化を解かれているかです。新棟内の端末同士であればトラフィックはVXLANのまま運ばれ、ヘッダに載ったSGTに基づいてエッジノードでポリシーが適用されるため、期待どおりに制限が効きます。しかし既存棟のサーバへ向かうトラフィックはファブリックボーダーでデカプセル化され、そこから先はSGTを持たない通常のIPパケットとして従来網を流れます。従来網の機器はSGTを理解しないので、「営業部SGT → サーバSGT を拒否」というグループベースの規則は、ボーダーを越えた時点で適用先を失うわけです。したがって根本原因はポリシー定義の誤りではなく、SGTの伝搬がボーダーで途切れていることにあります。妥当な打ち手は、ボーダー以遠にIP-SGT対応を伝える SXP を構成する、あるいはSGT非対応区間の入口に相当する箇所で同等の制限をIPベースのACLとして明示的に置くことです。逆に、もし報告が「新棟の端末同士でも制限が効かない」であれば、今度こそポリシー定義や認証時のSGT割り当て(端末が意図したグループに入っていない)を疑うのが筋になります。さらに「ファブリック内の特定端末だけ、移動後に通信できない」なら、疑うべきはポリシーではなくLISPのマッピング更新(新しいエッジノードでEIDが正しく登録され、コントロールプレーンノードのマップが更新されているか)です。SD-Accessの診断は、症状が起きている区間がオーバーレイ内かボーダー越えか、そして止まっているのが到達性(LISP/VXLAN)か制限(SGT)かを見極めることで、疑う層が一意に決まります。

要素担当プレーン果たす役割この層を疑う症状
LISP制御EIDとRLOCのマッピング解決(移動しても同一IP)端末の移動後に到達不能になる
VXLANデータL2 over L3カプセル化(VNIで識別・SGTも搬送)MTU不足やアンダーレイ不安定で断続的に落ちる
TrustSec/SGTポリシーグループ単位の通信可否(IP/VLAN非依存)到達はするが想定した制限が効かない
ファブリックボーダー境界VXLAN終端・従来網との相互接続ファブリック外へ出た途端に挙動が変わる
注意

ひっかけ:LISP がトラフィックをカプセル化して運ぶ」は誤りです——LISP は制御プレーン(EIDとRLOCのマッピング解決)であり、実際の運搬は VXLAN が担います。また「SGT はファブリック外でもそのまま有効」も誤り=SGT は VXLAN ヘッダ等で運ばれるため、ファブリックボーダー を越えて SGT 非対応の従来網に出るとタグが失われ、SXP などで伝搬させない限りグループベースのポリシーは効きません。さらに「アンダーレイは端末のIPを扱う」も誤り=アンダーレイが保証するのは RLOC 間のIP到達性だけです。

制御プレーンLISP・データプレーンVXLAN・ポリシーTrustSecの三層構造とファブリックボーダーの図。
どこで何が起きているかを層で切り分ける

1.3.4この節のまとめ

  • SD-Accessは制御=LISP(EID/RLOCマッピング)/データ=VXLAN(L2 over L3・VNI 24ビット)/ポリシー=TrustSec/SGTの三層で役割が分かれる
  • アンダーレイはIGPによるRLOC間のIP到達性、オーバーレイはVXLANの論理網。切り分けは必ずアンダーレイから行い、RLOC間は通るがEID間が通らないならLISP/ポリシー側を疑う
  • 従来キャンパスとはファブリックボーダーで相互運用し、そこがVXLAN終端。SGTはボーダーを越えると失われるため、SXP等で伝搬させるか同等のACLを置く

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理解度チェック

(軽い確認用)

Q1. 新棟をSD-Accessファブリック、既存棟を従来のVLAN/ACL構成で運用している。新棟の端末から既存棟のサーバへは接続できるが、ISEで定義したグループベースの制限が適用されていない。新棟内の端末同士では制限は正しく効いている。この症状の原因として最も適切なものはどれか。

Q2. SD-Accessファブリックで、無線端末が別フロアのエッジノード配下へローミングした直後から通信できなくなる事象が発生している。アンダーレイのRLOC間のping疎通は正常で、他の端末は同じフロアで問題なく通信できている。最初に確認すべき箇所として最も適切なものはどれか。

Q3. SD-Accessの設計レビューで、あるエンジニアが「オーバーレイでトラフィックを運ぶカプセル化はLISPが行い、VXLANは端末の位置情報を解決する役割を担う」と説明した。この説明の誤りを正すものとして最も適切なものはどれか。

理解度を確認第1章「アーキテクチャ」の問題を解く