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第1章 · アーキテクチャ·v1.0.0·更新 2026/7/20·読了目安 約18分

変更要約: 初版

1.1企業ネットワーク設計原則と高可用性

この節の要点

2-tier(collapsed core)3-tierファブリッククラウドという企業ネットワークの設計モデルと、FHRPSSO(Stateful Switchover)スタック/VSSによる冗長化を、「この可用性要件にはどの冗長化が効くのか」「切替時に何が失われるのか」という設計判断として学びます。

ENCOR のアーキテクチャ領域は「モデル名を覚える」試験ではありません。問われるのは、与えられた可用性要件・障害モード・運用制約に対して、どの階層構成とどの冗長化技術を組み合わせるかという判断です。同じ「二重化」でも、機器そのものを二重化するのか(スタック/VSS)、機器内のスーパーバイザを二重化するのか(SSO)、デフォルトゲートウェイの役割を二重化するのか(FHRP)で、守られる障害が違い、切替に要する時間も、切替時に失われるものも違います。この節では設計モデルの選び分けと、冗長化技術がどの単一障害点を消すのかを整理します。

1.1.1設計モデルの選び分け

  • 3-tier(3階層)アクセス層(エンドポイント収容)・ディストリビューション層(ポリシー適用・集約・L2/L3境界)・コア層(高速で単純な転送に徹するバックボーン)に分ける。ディストリビューションブロックごとに障害と設定変更の影響を閉じ込められるため、建屋やブロック数が多い大規模キャンパスほど効く。コア層には原則としてポリシーを載せず、転送の単純さと安定性を保つ。
  • 2-tier(collapsed core)=ディストリビューションとコアを1層に統合した構成。ブロック数が少ない中小規模では、コアを別に立てても中継ホップと機器コストが増えるだけで可用性はさほど上がらないため、統合が妥当な判断になる。ただしブロックが増えると統合層に全ての相互接続が集中し、将来の拡張時に再設計が必要になりやすい点は理解しておく。
  • ファブリック=物理的な到達性を担うアンダーレイの上に、カプセル化による論理網=オーバーレイを重ねる方式。VLAN や配線に縛られずポリシーを配れるため、同じポリシーを場所に依存せず適用したいキャンパスやデータセンタで採用する。クラウドは事業者インフラ側にワークロードを置く形態で、拠点設計としては「どこで終端し、どう暗号化し、どの経路で抜けるか」というWAN/セキュリティ設計の問題になる。

1.1.2冗長化技術が消す単一障害点

  • FHRP(First Hop Redundancy Protocol)=複数のルータ/L3スイッチで仮想IP(デフォルトゲートウェイ)を共有し、アクティブ機が落ちたら待機機が引き継ぐ。消えるのは「ゲートウェイ機器そのものの停止」という単一障害点で、ホスト側は設定変更なしで通信を継続できる。HSRP(Cisco・Active/Standby・優先度既定100・preempt既定無効)、VRRP(標準・Master/Backup・preempt既定有効)が代表。
  • SSO(Stateful Switchover)1台の筐体内で冗長スーパーバイザを持ち、アクティブ側の障害時にスタンバイ側が状態を引き継いで制御を続ける。消えるのは「スーパーバイザ(制御エンジン)の故障」であって、電源系や上流リンクの障害ではない。SSO は L2 の状態や設定を引き継ぐが、ルーティングプロトコルの隣接を維持するには NSF/NSR などの補助機能が併用される点が実務上の要点。
  • スタックVSS複数の物理筐体を1つの論理スイッチとして扱う技術。管理面が1台に集約されるだけでなく、両筐体をまたぐ MEC(マルチシャーシ EtherChannel) を組めるため、下位スイッチから見て冗長リンクが1本の論理リンクになり STP のブロッキングを避けられるのが最大の設計効果。消えるのは「筐体単位の故障」だが、論理的には1台なのでソフトウェア更新の影響は全体に及ぶという裏返しがある。

1.1.3可用性要件から技術を選ぶ

  • 要件が「ゲートウェイ機器が1台落ちても端末の通信を止めない」なら FHRP。要件が「筐体は1台のまま、制御エンジンの故障で落ちない」なら SSO。要件が「冗長リンクを遊ばせず帯域として使い、STP の再収束を待たせない」ならスタック/VSS + MEC。要件の言葉が指す障害モードを先に特定するのが、選択を誤らない最短経路になる。
  • 冗長化は足せば足すほど良いわけではない。FHRP・スタック・SSO を無秩序に重ねると、切替イベントが多層で連鎖し、かえって収束が読めなくなる。設計としてはL2/L3境界をどこに置くかを決め、その境界に対応した冗長化を1組選ぶのが基本。加えて、切替時間の要件(秒単位か、サブ秒か)が、タイマ調整や BFD 併用の要否を決める。
試験ポイント

「3-tier は大規模でブロック単位に障害を閉じ込める/2-tier はコアとディストリビューションの統合」「ファブリック=アンダーレイ(物理到達性)+オーバーレイ(論理網)」「FHRP=ゲートウェイ機器の冗長」「SSO=筐体内スーパーバイザの冗長(隣接維持には NSF/NSR を併用)」「スタック/VSS=複数筐体を論理1台にし MEC で STP ブロッキングを回避」が頻出です。どの単一障害点を消すかで識別しましょう。設定確認は show standby(HSRP)・show redundancy states(SSO)・show switch(スタック)で行います。

あなたは2棟・6ブロック規模のキャンパスを運用しており、「四半期に一度、ディストリビューションスイッチの片系を再起動すると業務端末が15〜30秒ほど通信断になる」という申告を受けました。構成はアクセス層のL2スイッチが2台のディストリビューションスイッチへそれぞれ別々のL2リンクで上がり、ディストリビューション2台で HSRP を組んでデフォルトゲートウェイを冗長化しています。ここで「HSRP を入れているのだから切替は速いはず」と考えるのが典型的な誤診です。show standby で確認すると HSRP 自体は数秒以内に Active を引き継いでいるのに断が長い——この差分こそが原因の在処で、遅いのはL3のゲートウェイ切替ではなく、その下でL2トポロジが再計算されている時間です。アクセスからの2本が別々のL2リンクである以上、片方は STP でブロッキングされており、上位が落ちるとブロッキングポートが転送状態へ遷移するまでの再収束を待たされます。妥当な打ち手は、ディストリビューション2台を VSS(またはスタック)で論理1台に束ね、アクセスからの2本を MEC として1本の論理リンクにすることです。こうすると下位から見て冗長リンクは常に転送状態にあり、片系の再起動は EtherChannel のメンバ1本の消失としてサブ秒で吸収され、そもそも HSRP の切替も STP の再収束も発生しません(ゲートウェイは論理1台のままなので FHRP 自体が不要になる)。ここで「HSRP のホールドタイマを短縮する」だけを選ぶと、L3の切替は速くなってもL2再収束の待ち時間は残るため部分的な改善に留まり、逆にタイマを詰めすぎて瞬断で不要なフラップを誘発するリスクを負います。同様に「アクセススイッチにも SSO 対応機を入れる」は、申告された障害モード(計画的な片系再起動時の切替)とは別の単一障害点(スーパーバイザ故障)に効く対策で、症状に対応しません。症状の時間軸を分解し、どの層の収束が支配的かを特定してから技術を選ぶのが、この種の設計課題の解き方です。

技術冗長化の単位消える単一障害点選ぶ場面
HSRP/VRRP(FHRP)デフォルトゲートウェイの役割ゲートウェイ機器の停止別筐体のL3機器2台で仮想IPを共有したい
SSO筐体内のスーパーバイザ制御エンジンの故障筐体は1台のまま制御断を避けたい
スタック/VSS物理筐体(論理1台化)筐体単位の故障MECで冗長リンクを活用しSTP再収束を避けたい
MEC(マルチシャーシEtherChannel)リンク(束の1メンバ)片側リンク/片系筐体の消失下位から論理1本に見せ常時転送させたい
注意

ひっかけ:SSO を入れればルーティングの隣接も無停止で維持される」は誤りです——SSO は筐体内の制御エンジン切替を担う機能で、切替中に隣接を落とさないためには NSF/NSR などの補助機能を併用します。また「FHRP を組めば L2 の再収束も速くなる」も誤り=FHRP が冗長化するのはゲートウェイの役割だけで、その下でブロッキングポートが転送へ遷移する時間は別問題です。さらに「スタック/VSS で論理1台にすれば全ての障害に強い」も誤り=論理1台であるがゆえにソフトウェア更新や設定ミスの影響は全体に波及します。

2-tier/3-tier/ファブリック/クラウドの設計モデルと、FHRP・SSO・スタック/VSSの冗長化の図。
どの単一障害点を消すかで冗長化を選ぶ

1.1.4この節のまとめ

  • 設計モデルは規模と要件で選ぶ:ブロックが多い大規模は3-tier、少数なら2-tier(collapsed core)、場所に依存しないポリシー配布はファブリックアンダーレイオーバーレイ
  • 冗長化は消したい単一障害点で選ぶ:ゲートウェイ機器=FHRP(HSRP/VRRP)、筐体内の制御エンジン=SSO(隣接維持はNSF/NSR併用)、筐体そのもの=スタック/VSS
  • 切替が遅い症状はどの層の収束が支配的かを分解して診断する。L2再収束が支配的ならVSS/スタック+MECで冗長リンクを常時転送にするのが根治策

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理解度チェック

(軽い確認用)

Q1. アクセススイッチが2台のディストリビューションスイッチへ別々のL2リンクで接続され、ディストリビューション2台はHSRPでゲートウェイを冗長化している。片系を計画再起動すると端末が15〜30秒断となるが、`show standby`ではHSRPのActive引き継ぎは数秒以内に完了している。断を根本的に解消する最も適切な対策はどれか。

Q2. 単一筐体のコアスイッチで「制御エンジンの故障時にも設定と転送を維持し、制御断を避けたい」という可用性要件が出された。冗長スーパーバイザを搭載してSSOを構成したが、切替のたびにOSPF隣接がリセットされ経路が再計算されてしまう。この状況の説明として最も適切なものはどれか。

Q3. 2棟・4ブロック規模のキャンパスで、独立したコア層を持たない構成を採るべきかの判断を求められた。各ブロックのディストリビューションは相互接続され、将来の増設予定は当面ない。設計判断として最も適切な根拠はどれか。

理解度を確認第1章「アーキテクチャ」の問題を解く