変更要約: 初版
6.2SDNアーキテクチャとファブリック
物理的な下地のアンダーレイと論理的なオーバーレイ、その両者を束ねるファブリック、Ciscoのキャンパス向け自動化SD-Access、コントローラとアプリをつなぐノースバウンドAPI(N-S)とコントローラ間をつなぐイーストウェストAPI(E-W)、そして自動化と保証を担うクラウド管理ダッシュボードCisco Catalyst Center(旧DNA Center)を学びます。
前の節で学んだコントローラベースの考え方を、CiscoはSDN(Software-Defined Networking)として体系化しています。SDNの肝は、物理配線という「下地」の上に、ポリシーや仮想ネットワークという「論理的な層」を重ねて分離することです。この節では、その二層(アンダーレイとオーバーレイ)とそれらを束ねるファブリックの関係、コントローラが上位のアプリや隣のコントローラとどんなAPIで会話するか、そしてCiscoの実装であるSD-AccessとCatalyst Centerが何を担うかを、用語の混同を避けながら整理します。
6.2.1アンダーレイ・オーバーレイ・ファブリック
- アンダーレイ=スイッチ/ルータと配線からなる物理的な下地のネットワーク。ファブリックの各ノード間にIP到達性を提供する土台で、通常はシンプルなルーテッドIP網として組む。
- オーバーレイ=アンダーレイの上にトンネル(例:VXLAN)で構築する論理ネットワーク。物理配線を変えずに仮想的なセグメントやポリシーを重ねられ、ユーザトラフィックはこの論理層を流れる。
- ファブリック=アンダーレイとオーバーレイを合わせた1つの管理対象としての全体。コントローラはファブリック全体を単一システムとして扱い、ノード群にポリシーを配布する。
6.2.2SD-Access(Ciscoキャンパスファブリック)
- SD-Access=Ciscoのキャンパス/アクセス網向けSDNソリューション。アンダーレイの上にVXLANのオーバーレイを構築し、ユーザやデバイスをグループ単位のポリシーで制御する。ネットワークをCisco Catalyst Centerから自動化・監視する。
- ポリシーをIPアドレスやVLANではなくグループで表現するため、ユーザがどのポートに接続しても同じアクセス制御が追随する。これによりアクセス網のセグメンテーションが物理構成から切り離される。
6.2.3ノースバウンドAPIとイーストウェストAPI
- ノースバウンドAPI(N-S・北向き)=コントローラとその上位のアプリケーション/自動化スクリプトをつなぐインタフェース。通常はREST APIで、運用者はこのAPI経由で「意図」をコントローラへ伝える。
- サウスバウンドAPI(南向き)=コントローラと下位の実機(スイッチ/ルータ)をつなぐインタフェース(NETCONF/OpenFlow等)。コントローラの決定を機器へ配布する経路。
- イーストウェストAPI(E-W・東西)=コントローラ同士(同一クラスタ内や別ドメインのコントローラ間)で状態を同期・連携するためのインタフェース。冗長化やスケールアウトの際に効く。
「ノースバウンド=コントローラ↔上位アプリ(REST)」「サウスバウンド=コントローラ↔下位の実機」「イーストウェスト=コントローラ同士」の向きが最頻出です。アンダーレイ=物理の下地/オーバーレイ=その上の論理(VXLAN等)/ファブリック=両者を合わせた全体という三段の区別も必ず押さえましょう。
6.2.4Cisco Catalyst Center(旧DNA Center)とクラウド管理
- Cisco Catalyst Center(旧称 Cisco DNA Center)=SD-Accessを含むエンタープライズ網の中央コントローラ兼管理ダッシュボード。設計・プロビジョニング・ポリシー・アシュアランス(監視/保証)を1つのGUIから行う。
- アシュアランス機能はテレメトリにAI/MLを適用してネットワークの健全性を評価し、問題の根本原因や推奨対処を提示する。運用者は個々のCLIではなく、このダッシュボード(および北向きREST API)を通じてネットワーク全体を操作する。
あなたはキャンパス網の刷新を任され、「社員が本社でも支社でも、有線でも無線でも、同じアクセス権限が自動で追随する」ことを要件に据えたとします。従来はVLANとACLをIPアドレス設計に紐づけ、拠点ごとに手で維持していたため、席替えやフロア移動のたびに設定が破綻しがちでした。ここでSD-Accessを採用すると、物理配線はアンダーレイとして単純なIP到達性だけを担わせ、その上にVXLANのオーバーレイを張って、ユーザをグループ(例:「社員」「ゲスト」「IoT機器」)でくくったポリシーを適用します。ユーザがどのポートに挿しても、認証結果からグループが決まり同じポリシーが追随するため、IPやVLANの再設計なしに一貫したアクセス制御が実現します。この設計・配布・監視を束ねるのがCatalyst Centerで、運用者はダッシュボード(またはそのノースバウンドREST APIでスクリプトから)意図を投入し、Catalyst Centerがサウスバウンド経由で各ノードへ具体設定を降ろします。もしコントローラを冗長化しスケールさせるなら、コントローラ間の状態同期はイーストウェストAPIが担います。ここで用語を取り違え「ユーザトラフィックはアンダーレイを流れる」と考えると設計を誤ります——ユーザトラフィックが乗るのはオーバーレイで、アンダーレイはあくまでその土台のIP到達性を提供する層です。
| API方向 | つなぐ相手 | 代表例 |
|---|---|---|
| ノースバウンド(北) | コントローラ ↔ 上位アプリ/スクリプト | REST API |
| サウスバウンド(南) | コントローラ ↔ 下位の実機 | NETCONF / OpenFlow 等 |
| イーストウェスト(東西) | コントローラ ↔ 別のコントローラ | コントローラ間の状態同期 |
ひっかけ: 「ユーザトラフィックはアンダーレイを流れる」は誤りです——ユーザデータが乗るのはオーバーレイ(VXLAN等の論理層)で、アンダーレイはその土台となる物理的なIP到達性を提供する層です。また「ノースバウンドAPIはコントローラと実機をつなぐ」も誤り=実機をつなぐのはサウスバウンド、ノースバウンドはコントローラと上位アプリをつなぎます。
6.2.5この節のまとめ
- アンダーレイは物理の下地(IP到達性)、オーバーレイはその上の論理層(VXLAN等でユーザトラフィックが流れる)、ファブリックは両者を合わせた管理単位
- ノースバウンドAPI=コントローラ↔上位アプリ(REST)、サウスバウンド=コントローラ↔実機、イーストウェストAPI=コントローラ同士
- SD-AccessはCiscoのキャンパスファブリックでグループ単位のポリシーを実現し、Cisco Catalyst Center(旧DNA Center)が設計/配布/AIアシュアランスを1つのダッシュボードで担う
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理解度チェック
(軽い確認用)Q1. SD-Accessファブリックの設計で、社員PCが送受信する業務トラフィックは論理的にどの層を流れ、物理配線はどの役割を担うか。最も適切な組み合わせはどれか。
Q2. 運用者が自作のPythonスクリプトからコントローラに対して「このポリシーを全キャンパスに適用せよ」という意図を送りたい。この目的で用いるインタフェースとして最も適切なものはどれか。
Q3. SD-Accessを含むエンタープライズ網で、設計・プロビジョニング・ポリシー適用に加えてAI/MLを用いたアシュアランス(健全性評価)を1つのダッシュボードから行える製品として、最も適切なものはどれか。

