Instiq
第3章 · 監査の実施と技法·v1.0.0·更新 2026/7/16·読了目安 約15分

変更要約: 初版

3.2監査技法

この節の要点

証拠を集める代表的な監査技法——資料を精査するドキュメントレビュー、担当者から状況を聴取するインタビュー、確認項目を体系化したチェックリスト法、独立した2つの記録を突き合わせる突合・照合、現場を直接確かめる現地調査(視察)——それぞれが得意とする証拠と限界を理解し、監査目的に応じてどれを選ぶか(あるいは組み合わせるか)を判断する力を養います。

監査証拠は自然に集まるものではなく、監査人が監査技法を選んで能動的に収集します。ここで問われるのは技法の名前を暗記することではなく、確かめたい事項(統制の整備か運用か、記録の正確性か現場の実態か)に対して、どの技法がどの証拠を最も証明力高く与えるかという判断です。この節では代表的な監査技法の特徴と限界を、目的に応じた使い分けとあわせて学びます。

3.2.1代表的な監査技法

  • ドキュメントレビュー(資料の閲覧・精査)=規程・手順書・設計書・台帳・記録などの文書を読み込み、統制が文書上どう定められているか(整備状況)や記録の内容を確かめる技法。整備状況の把握に有効だが、文書どおりに運用されているかまでは分からない。
  • インタビュー(ヒアリング)=担当者や責任者に口頭で質問し、実態や意図を聴取する技法。背景・経緯を素早くつかめるが、証言は主観や誤りを含みうるため口頭証拠は信頼性が相対的に低く、他の技法で裏づける必要がある。
  • チェックリスト法=あらかじめ確認すべき項目を体系的にリスト化し、漏れなく網羅的に点検する技法。監査の均質性・網羅性を担保しやすいが、リストにない想定外の問題を見落とすリスクがあり、リストの設計品質に依存する。
  • 突合・照合(マッチング)=独立した2つ以上の記録を突き合わせて一致・不一致を確かめる技法(例:受注データと出荷データ、帳簿と実残高、システム記録と外部の入金明細)。独立した情報源どうしの照合は不整合や不正を検出でき証明力が高い。
  • 現地調査(視察・観察)=監査人が現場に出向いて設備・作業・運用状況を直接目で確かめる技法。文書や証言では分からない実態(運用が実際に行われているか)を確認でき、監査人自らの入手証拠として信頼性が高い。ただし観察された時点の状態しか示さない。
試験ポイント

「ドキュメントレビューは整備状況の確認に強いが運用状況は分からない」「インタビューの口頭証拠は信頼性が低く裏づけが要る」「突合・照合は独立した記録どうしの一致検証で証明力が高い」「現地調査は運用の実態を監査人自ら確かめられる」が最頻出です。整備状況(デザイン)と運用状況(オペレーション)のどちらを確かめたいかで技法が変わる点、単一技法に頼らず組み合わせる点を押さえること。

あるシステム監査人が、ある企業の「本番環境へのプログラム変更は必ず責任者の承認を得てから適用する」という変更管理統制を評価するとします。手順書には承認プロセスが明記されており、ドキュメントレビューによって統制が文書上は適切に整備されていることは確認できました。しかし監査人は、これだけでは統制が実際に運用されている証拠にはならないと判断します。文書どおりに運用されていない可能性を確かめるため、監査人は次の技法を組み合わせます。まず変更管理の担当者へのインタビューで運用実態を聴取しますが、口頭証言だけでは信頼性が不足するため裏づけを取ります。そこで、実際に本番適用された変更の一覧(変更管理システムのログ)と、承認記録(ワークフローの承認履歴)とを突合・照合し、すべての本番変更に対応する承認が実在するかを確かめます。もし承認記録のない本番変更が突合で1件でも見つかれば、それは「統制は整備されているが運用に不備がある(運用上の不備)」という診断の決定的な証拠になります。加えて、緊急変更の作業現場を現地調査し、承認前に適用していないかを直接観察します。このように、整備状況はドキュメントレビューで、運用状況は突合・照合や現地調査といった監査人自らが検証する技法で確かめるという組合せが、統制の実効性を証明力高く評価する正しい判断です。逆に手順書の閲覧だけで「統制は有効」と結論づけるのは、整備上の不備と運用上の不備を区別できない典型的な誤りです。

注意

ひっかけ: 「手順書のドキュメントレビューで統制が文書化されていれば、その統制は有効に運用されていると結論づけてよい」は誤りです——ドキュメントレビューで確認できるのは整備状況までであり、運用状況は突合・照合や現地調査など監査人自らが検証する技法で確かめる必要があります。また「インタビューでの担当者の証言は正式な回答なので、それ単独で監査証拠として十分である」も誤り=口頭証拠は信頼性が低く、他の技法による裏づけが必要です。

レビュー・インタビュー・突合の図。
複数の手法で確かめる

3.2.2この節のまとめ

  • ドキュメントレビューは統制の整備状況の確認に有効だが、文書どおりに運用されているかは示さない
  • 突合・照合は独立した記録どうしの一致検証で証明力が高く、現地調査は運用の実態を監査人自ら確かめられる
  • インタビューの口頭証拠は信頼性が低く、単一技法に頼らず組み合わせて整備と運用の両面を確かめるのが正しい判断

進捗の記録にはログインが必要です。

理解度チェック

(軽い確認用)

Q1. 本番環境へのプログラム変更に責任者承認を要する統制を評価する。手順書のドキュメントレビューで承認プロセスが明文化されていることを確認できた。次に監査人が取るべき最も適切な手続はどれか。

Q2. 受注システムの出荷データと、独立して管理されている運送会社の配送実績データを突き合わせて、計上された出荷がすべて実際に配送されているかを確かめたい。この目的に最も適した監査技法はどれか。

Q3. チェックリスト法を用いた監査における注意点として、最も適切なものはどれか。

理解度を確認第3章「監査の実施と技法」の問題を解く