変更要約: 初版
6.3ファシリティマネジメント
瞬断を埋め自家発電へ橋渡しするUPS(無停電電源装置)と自家発電、機器の冷却を担う空調と電力を配る分電、地震から機器を守る耐震/免震、不正入室を防ぐ入退室管理、そして施設全体の可用性水準を段階で示すデータセンタTierを学びます。可用性目標とコストのトレードオフで冗長度を選ぶのが要点です。
どれほど冗長化したシステムでも、電源が落ち・空調が止まり・地震で機器が倒れれば止まります。ファシリティ(施設設備)はサービス可用性の物理的な土台であり、サービスマネージャには、事業影響度が示す可用性目標に対し、電源・空調・耐震・入退室といった設備の冗長度を、コストとのトレードオフで過不足なく選ぶ判断が求められます。すべてを最高水準にすれば安全ですが費用は跳ね上がる——目標に見合う水準を選ぶのが実務です。
6.3.1電源:UPS・自家発電・分電
- UPS(無停電電源装置)=停電や瞬時電圧低下の瞬間に内蔵バッテリから途切れなく給電し、機器を停止させない装置。ただしバッテリ駆動時間は数分〜十数分と短く、長時間の停電をUPS単体では賄えない。UPSの役割は「停電の瞬断を埋め、後続の自家発電が立ち上がるまで、または安全にシャットダウンするまでの橋渡し」にある。
- 自家発電(自家発電機)=燃料(軽油等)で発電し、長時間の停電時にUPSから引き継いで施設に給電し続ける設備。起動に十数秒〜数十秒かかるため、その間の瞬断はUPSが埋める。UPSと自家発電は役割分担(瞬断はUPS・長時間は自家発電)で組み合わせるのが定石で、どちらか一方では停電対策として不十分。燃料備蓄量が連続運転可能時間を決める。
- 分電(分電盤・電源系統)=受電した電力をラック・機器へ分配する仕組み。電源系統を二重化(A系/B系)し別経路で各機器に給電すれば、片方の系統やブレーカの障害でも稼働を維持できる。電源が単一系統だと、分電盤やブレーカが単一障害点になり、いくらサーバを冗長化しても共倒れになる。
6.3.2空調・耐震/免震・入退室管理
- 空調=機器が発する熱を排出し室温・湿度を機器の許容範囲に保つ設備。空調が止まると数分〜数十分で機器が過熱し熱暴走・故障に至るため、空調も冗長化が重要。空調は電源に依存するので、停電時にUPS/自家発電が空調まで給電できるか(空調を含めた電源設計)が可用性を左右する。
- 耐震/免震=地震から機器を守る対策。耐震=建物・ラックの構造を強化し揺れに耐える(機器はある程度揺れる)。免震=建物と地盤の間に免震装置(積層ゴム等)を挟み揺れそのものを機器へ伝えにくくする、より高度で高コストな方式。地震リスクが高くサービス継続要求が厳しい拠点ほど免震が検討される。
- 入退室管理=データセンタへの物理的な不正侵入・内部不正を防ぐ対策。ICカード・生体認証による認証、共連れ(tailgating)を防ぐアンチパスバックやマントラップ(二重扉)、入退室ログの記録と監視、区画ごとの権限分離などからなる。物理セキュリティは論理的なアクセス管理と同様、可用性・機密性を支える。
「UPS=瞬断を埋める短時間の橋渡し(数分〜十数分)」「自家発電=長時間停電を引き継ぐ(燃料備蓄で連続運転時間が決まる)」「両者は役割分担で組み合わせる」「電源/空調の単一系統は単一障害点」「耐震=耐える/免震=揺れを伝えない(高コスト)」「データセンタTierは可用性水準の段階」が最頻出です。UPSだけ・自家発電だけでは不十分という切り分けが問われます。
6.3.3データセンタTierと冗長度の選択
あるサービスマネージャが、24時間365日提供するオンラインサービスを新設のデータセンタ拠点に置くにあたり、事業影響度に見合う設備の冗長度を、コストとのトレードオフで選ぶとします。まず電源です。停電対策としてUPSだけを置く案が挙がりますが、UPSのバッテリは数分〜十数分しか持たず長時間停電を賄えないため、UPS単体は不十分で、瞬断をUPSが埋め、その間に立ち上がる自家発電が長時間を引き継ぐ役割分担の構成を選びます。加えて、いくらサーバを冗長化しても分電盤やブレーカが単一系統だとそこが単一障害点になるため、電源系統をA系/B系に二重化して別経路で各機器へ給電します。空調も同様に、止まれば数十分で機器が過熱するため冗長化し、停電時にはUPS/自家発電から空調にも給電できる電源設計にします(サーバだけ生きても冷却が止まれば結局停止するため)。次に地震対策です。この拠点は地震リスクが高く、サービス継続要求が厳しいので、揺れに「耐える」耐震よりも、揺れそのものを機器へ伝えにくくする免震を採用します——コストは上がりますが、事業影響度が高く継続が至上命題であれば妥当な投資です。物理セキュリティとして入退室管理(生体認証・共連れ防止・入退ログ監視)を施し、内部不正・物理侵入からも守ります。こうして設備水準を積み上げた結果、この拠点は電源・空調・経路が冗長化され保守中も無停止で運用できる、いわば上位のデータセンタTier相当の可用性水準に到達します。逆に、可用性要求が緩い社内向けの検証系拠点であれば、免震や完全二重化はコスト過剰となり、UPS+耐震程度の下位Tier相当で十分——このように可用性目標とコストのトレードオフで、過不足なく冗長度を選ぶのがファシリティマネジメントの判断です。
| 設備 | 役割 | 注意点 |
|---|---|---|
| UPS | 瞬断を埋める短時間の給電 | 数分〜十数分・長時間停電は賄えない |
| 自家発電 | 長時間停電をUPSから引き継ぐ | 起動に時間・燃料備蓄が連続運転時間を決める |
| 分電(二重化) | 別経路で各機器へ給電 | 単一系統は分電盤が単一障害点 |
| 免震 | 揺れを機器へ伝えにくくする | 高コスト・地震リスクと継続要求で採否 |
ひっかけ: 「停電対策はUPSさえあれば十分」は誤りです——UPSのバッテリは数分〜十数分で尽き、長時間停電は賄えないため自家発電と役割分担で組み合わせるのが正解です。「サーバを冗長化すれば電源や空調は単一系統でよい」も誤りで、分電盤や空調が単一障害点になれば共倒れします。「可用性のためすべての設備を最高水準(免震・完全二重化)にすべき」も誤り=事業影響度に見合わない過剰投資であり、可用性目標とコストのトレードオフで過不足なく冗長度を選ぶのが実務です。
6.3.4この節のまとめ
- UPSは瞬断を埋める短時間の橋渡し(数分〜十数分)、自家発電が長時間停電を引き継ぐ——両者を役割分担で組み合わせる
- 電源・空調の単一系統は単一障害点になるため二重化、耐震=耐える/免震=揺れを伝えない(高コスト)を地震リスクで選ぶ
- データセンタTierは可用性水準の段階——事業影響度に見合う冗長度を、コストとのトレードオフで過不足なく選ぶ(入退室管理で物理侵入も防ぐ)
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理解度チェック
(軽い確認用)Q1. 24時間提供するサービスの拠点で停電対策を設計している。コスト削減のためUPSだけを設置する案が出たが、長時間の停電にも耐えたい。最も適切な構成はどれか。
Q2. サーバを二重化した拠点で、電源は受電から各ラックまで単一の分電盤・単一系統で配電している。可用性上の弱点として最も適切な指摘はどれか。
Q3. 地震リスクが高い地域に、事業継続要求の厳しい基幹サービスのデータセンタを新設する。限られた予算の中で地震対策を検討している。最も適切な考え方はどれか。

