変更要約: 初版
1.5認証技術とデジタル署名(多要素認証・PKI・SSL/TLS)
複数要素で本人確認する多要素認証(MFA)・生体認証、正当な作成者を証明するデジタル署名、公開鍵の正当性を保証するPKI(公開鍵基盤)と認証局(CA)、通信のなりすましを防ぐチャレンジレスポンス認証、Web通信を保護するSSL/TLSを学びます。
前節で学んだ暗号技術は、「本人であることをどう証明するか」という認証の仕組みの土台になります。パスワードだけに頼る認証は漏えい・使い回しに弱く、公開鍵暗号だけでは「その公開鍵が本当に本人のものか」を証明できません。認証技術は複数の仕組みを組み合わせることで初めて実務的な強度を得るという点を、この節では多要素認証とデジタル署名・PKIの両面から学びます。
1.5.1多要素認証と生体認証
- 多要素認証(MFA)=知識情報(パスワード等)・所持情報(ICカード・スマホ等)・生体情報(指紋・虹彩等)のうち異なる2種類以上を組み合わせる認証。同じ種類を2つ使っても多要素にはならない(例:パスワードと秘密の質問はどちらも知識情報なので多要素認証ではない)。1つの要素が漏えいしても他要素で防御できる点が価値。
- 生体認証=指紋・虹彩・静脈等の身体的特徴で本人確認する方式。本人拒否率(FRR)(本人なのに拒否してしまう率)と他人受入率(FAR)(他人なのに受け入れてしまう率)はトレードオフの関係にあり、片方を厳しくすると他方が緩くなる。紛失・失念のリスクがない一方、生体情報は変更できないため漏えい時の影響が大きい。
1.5.2デジタル署名・PKI・チャレンジレスポンス・SSL/TLS
- デジタル署名=送信データのハッシュ値を送信者の秘密鍵で暗号化したもの。受信者は送信者の公開鍵で復号しハッシュ値を照合することで、真正性(本人が作成)と完全性(改ざんなし)を同時に検証できる。署名の作成は秘密鍵・検証は公開鍵という向きを取り違えないこと(機密性目的の暗号化とは鍵の使い方が逆)。
- PKI(公開鍵基盤)=公開鍵が正当な持ち主のものであることを保証する仕組み全体。認証局(CA)=公開鍵と持ち主の情報を結びつけたデジタル証明書(電子証明書)を発行する信頼された第三者機関。公開鍵だけでは「本当にその人の鍵か」証明できないため、CAの署名が入った証明書によって真正性を保証する。
- チャレンジレスポンス認証=サーバが毎回変わるランダムな値(チャレンジ)を送り、利用者側はパスワードと組み合わせた計算結果(レスポンス)のみを返すことで、パスワード自体を通信路に流さず盗聴・再送攻撃を防ぐ。SSL/TLS=サーバ証明書(CAが発行)でサーバの真正性を確認 → ハイブリッド暗号でセッション鍵を安全に交換 → 以降は共通鍵暗号で高速に暗号化通信という流れで機密性・完全性・真正性をまとめて実現する。
多要素認証は異なる種類(知識/所持/生体)の組み合わせが要件、デジタル署名=秘密鍵で暗号化し公開鍵で検証(真正性+完全性)、認証局(CA)が公開鍵の正当性を保証する、生体認証のFRR/FARのトレードオフが最頻出です。SGでは特に、組織としてどの認証方式をどの業務に適用すべきかを状況設定から判断させる出題が特徴的です。
ある金融系企業の情報システム部門が、リモートワーク環境からの社内システムアクセスと、顧客との電子契約という2つの業務のセキュリティ強化を検討する場面を追ってみましょう。まず社内システムへのログインについて、これまでパスワードのみの認証だったところ、フィッシングによる認証情報の窃取リスクを踏まえ、パスワード(知識情報)に加えてスマートフォンアプリが生成するワンタイムコード(所持情報)を要求する多要素認証へ強化します。役員等の高権限アカウントについては、さらに指紋認証(生体情報)を加えた3要素とし、本人拒否率(FRR)が高すぎて業務に支障が出ないよう精度を調整しつつ運用します。次に、顧客との契約書を電子データでやり取りする業務については、「契約書が改ざんされていないこと」と「相手が確かに契約者本人であること」を両立させる必要があるため、デジタル署名を導入します。契約書のハッシュ値を顧客の秘密鍵で暗号化した署名を添付してもらい、自社側は顧客の公開鍵で復号して照合します。しかしここで「その公開鍵が本当にその顧客のものか」という新たな疑問が生じます。これを解消するため、信頼できる認証局(CA)が発行したデジタル証明書を用いて顧客の公開鍵の正当性を確認する運用とし、PKIの枠組み全体で真正性を担保します。最後に、社内システムとブラウザ間の通信については、SSL/TLSを有効化し、サーバ証明書によるサーバの真正性確認・ハイブリッド暗号によるセッション鍵交換・共通鍵暗号による高速な暗号化通信という一連の流れで、パスワードやワンタイムコードそのものが盗聴されるリスクも合わせて低減します。認証を強化する際は、単一の技術に頼らず、業務のリスクに応じて複数の仕組みを組み合わせることが、SGが重視する管理者の判断力です。
| 認証・署名の仕組み | 使う鍵・要素 | 保証する性質 |
|---|---|---|
| 多要素認証 | 知識・所持・生体のうち異なる2種以上 | 1要素漏えい時の防御力向上 |
| デジタル署名 | 作成=送信者の秘密鍵/検証=送信者の公開鍵 | 真正性+完全性 |
| PKI/認証局(CA) | CAが発行するデジタル証明書 | 公開鍵の正当性の保証 |
| チャレンジレスポンス認証 | 毎回変わるランダム値+パスワード | 盗聴・再送攻撃への耐性 |
ひっかけ: 「パスワードと秘密の質問を両方要求すれば多要素認証になる」は誤りです。どちらも知識情報という同じ種類であり、異なる種類の要素を組み合わせて初めて多要素認証になります。また「デジタル署名は送信者の公開鍵で暗号化して作る」も誤りで、署名の作成は送信者の秘密鍵、検証は送信者の公開鍵という順序が正しく、機密性目的の暗号化(受信者の公開鍵で暗号化)とは鍵の使い方が逆になる点を混同しないよう注意が必要です。
1.5.3この節のまとめ
- 多要素認証=知識・所持・生体のうち異なる2種以上。同じ種類の組み合わせは多要素にならない
- デジタル署名=秘密鍵で暗号化・公開鍵で検証=真正性+完全性。CA/PKIが公開鍵の正当性を保証
- チャレンジレスポンスはパスワード自体を送らず盗聴・再送を防ぐ。SSL/TLSは署名・鍵交換・暗号化通信を統合
進捗の記録にはログインが必要です。
理解度チェック
(軽い確認用)Q1. あるシステムへのログインで、パスワードに加えて「秘密の質問への回答」の入力も必須にした。この認証強化は多要素認証に該当するか、その理由として最も適切なものはどれか。
Q2. 電子契約サービスにおいて、受信した契約書データが改ざんされていないこと、および送信者が確かに契約者本人であることの両方を検証したい。この目的に最も適した仕組みはどれか。
Q3. ある企業が電子契約サービスの利用を検討する中で、「相手のデジタル署名を検証しても、そもそもその公開鍵が本当に契約相手本人のものかを確認できない」という懸念が挙がった。この懸念を解消する仕組みとして最も適切なものはどれか。

