変更要約: 初版
1.3業務モデリング
業務の流れを表すDFD(データフローダイアグラム)、データ構造を表すE-R図、システムと利用者の相互作用を表すUML(ユースケース図等)、業務プロセス全体の流れを表すBPMNという代表的な業務モデリング表記法の特性を理解し、現行業務(As-Is)と理想の業務(To-Be)を対比する目的に応じて適切な表記法を選ぶ判断力を学びます。
業務モデリングは「決まった図を機械的に描く」作業ではありません。同じ業務を可視化する場合でも、データの流れと処理の関係を明らかにしたいのか、データの構造を明らかにしたいのか、利用者とシステムの相互作用を明らかにしたいのか、業務プロセス全体の分岐・並行・関係者の役割分担を明らかにしたいのかによって、選ぶべき表記法(DFD/E-R図/UML/BPMN)は変わります。目的に合わない表記法を選ぶと、伝えたい情報がうまく可視化できず、ステークホルダとの認識合わせに失敗します。
1.3.1DFDとE-R図
- DFD(Data Flow Diagram・データフローダイアグラム)=業務やシステムにおけるデータの流れと処理(プロセス)・データストア・外部との入出力の関係を図示する表記法。「どのデータが、どの処理を経て、どこに保存・出力されるか」というデータの流れに着目した現状分析・業務改善の検討に向く。
- E-R図(Entity-Relationship Diagram)=業務で扱うデータの実体(エンティティ)と実体間の関連(リレーションシップ)を図示する表記法。「どのようなデータ項目が存在し、それらがどう関連するか」というデータ構造の設計・データベース設計の土台に向く。DFDが「データの流れ」に着目するのに対し、E-R図は「データの構造」に着目する点が異なる。
1.3.2UML(ユースケース図)とBPMN
- UML(Unified Modeling Language)のユースケース図=利用者(アクタ)とシステムが提供する機能(ユースケース)の相互作用を図示する表記法。「システムは誰に対して何ができるようにするのか」というシステムの機能スコープの合意形成に向く。業務プロセスの内部の手順の詳細(誰が何の順で処理するか)までは表現しない。
- BPMN(Business Process Model and Notation)=業務プロセス全体の手順・分岐(条件分岐)・並行処理・複数の関係者(レーン)間での役割分担を時系列に沿って図示する表記法。「現行の業務手順のどこが非効率か」「理想の業務手順はどうあるべきか」という業務プロセス全体のAs-Is/To-Be対比に向く。DFDがデータの流れに着目するのに対し、BPMNは処理の手順・制御フローに着目する。
「DFDはデータの流れ、E-R図はデータの構造、UMLユースケース図は機能スコープの合意、BPMNは業務プロセス全体の手順・分岐・役割分担」という目的別の使い分けが最頻出です。現状分析の目的(何を明らかにしたいか)から逆算して表記法を選べるように練習しておきましょう。
あなたは物流会社のシステムアーキテクトで、「出荷指示から配送完了までの業務プロセスが非効率で、部門間の連携で遅延が頻発している」という課題を受け、業務モデリングによる現状分析を任されたとします。ある同僚は「まずE-R図を描いて、扱っているデータ項目をすべて洗い出そう」と提案しました。しかし、この課題の本質はデータ項目の過不足ではなく、出荷指示部門・倉庫部門・配送部門という複数の関係者の間で、どの順序で・どの条件分岐で・誰が何を担当し処理が受け渡されているかにあります。E-R図はデータの構造(実体と関連)を明らかにするのには向いていますが、複数部門にまたがる処理の手順・分岐・並行関係を可視化する目的には向いていません。この場面で選ぶべき表記法はBPMNです。出荷指示部門・倉庫部門・配送部門を別々のレーンとして配置し、各部門の処理を時系列に並べることで、「倉庫部門の在庫確認待ちで配送指示が滞留している」「ある条件分岐(在庫不足時の代替手配)の処理が部門をまたいで往復し遅延の主因になっている」といったAs-Isの非効率箇所を可視化でき、そのままTo-Be(改善後の業務プロセス)の設計にも活用できます。もし後工程でこの業務が扱うデータの詳細設計(データベース設計)に進む段階になれば、そこで初めてE-R図が有効になります。「とりあえず定番の図を描く」のではなく、明らかにしたい対象(データの流れか、データの構造か、機能スコープか、業務プロセス全体の手順・役割分担か)に応じて表記法を選ぶことが、業務モデリングの核心です。
| 表記法 | 着目点 | 向く目的 |
|---|---|---|
| DFD | データの流れと処理 | データ視点の現状分析・業務改善検討 |
| E-R図 | データの実体と関連(構造) | データ構造設計・DB設計の土台 |
| UMLユースケース図 | 利用者とシステム機能の相互作用 | システムの機能スコープの合意形成 |
| BPMN | 手順・分岐・並行・関係者間の役割分担 | 業務プロセス全体のAs-Is/To-Be対比 |
ひっかけ: 「業務の現状分析ではまずE-R図を描くのが定石であり、どんな課題でもE-R図から着手すべき」は誤りです——明らかにしたい対象が複数部門にまたがる処理の手順・分岐・役割分担であればBPMN、データの流れであればDFD、機能スコープの合意であればUMLユースケース図が適切であり、E-R図はデータ構造の可視化に特化した表記法です。「表記法はどれを選んでも同じ情報が得られる」も誤り=着目点(データの流れ/構造、相互作用、手順・分岐)が異なるため、目的に合わない表記法では必要な情報が可視化できません。
1.3.3この節のまとめ
- DFDはデータの流れ、E-R図はデータの構造(実体と関連)に着目する表記法
- UMLユースケース図は機能スコープの合意、BPMNは業務プロセス全体の手順・分岐・役割分担に向く
- 表記法は明らかにしたい対象(データか、構造か、相互作用か、プロセス全体か)から逆算して選ぶ判断が核心
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理解度チェック
(軽い確認用)Q1. 物流会社で「出荷指示から配送完了までの業務プロセスが非効率で、部門間連携で遅延が頻発している」という課題の現状分析を行いたい。最も適切な業務モデリング表記法はどれか。
Q2. DFDとE-R図の違いに関する記述として最も適切なものはどれか。
Q3. システムが「誰に対して何ができるようにするのか」という機能スコープをステークホルダ間で合意したい場面で、最も適切な業務モデリング表記法はどれか。

