変更要約: 初版
3.3資源計画とチーム育成
RAM(責任分担マトリクス)・RACIによる役割の明確化、タックマンモデル(形成期・混乱期・統一期・機能期・散会期)の各段階でチームに何が起きているかとPMが取るべき関わり方、マズロー・ハーズバーグの動機付け理論の使い分け、資源平準化の判断を学びます。
プロジェクトチームは発足直後から高い生産性を発揮するわけではなく、段階を踏んで初めて機能するチームへと成熟します。PMにとって重要なのは、タックマンモデルの各段階の名前を暗記することではなく、「今チームがどの段階にあり、この段階特有の摩擦にどう関わるべきか」を見極めることです。この節では役割の明確化(RAM/RACI)、チームの成熟プロセス、動機付けの使い分け、資源の平準化を、実際のチーム運営の判断とともに学びます。
3.3.1RAM・RACIによる役割明確化
- RAM(責任分担マトリクス)=WBSのワークパッケージ(縦軸)とプロジェクトメンバ(横軸)を突き合わせ、誰が何に責任を持つかを一覧化する表。役割の重複や漏れを可視化するために使う。
- RACI=RAMの代表的な様式の一つで、各作業に対する関与をResponsible(実行責任者)・Accountable(説明責任者・最終承認者)・Consulted(相談先)・Informed(報告先)の4区分で明示する。Accountableは各作業につき原則1名のみとすることで意思決定の所在を明確にするのが要点。
- 実務での落とし穴:Accountableが複数人(または不在)だと、問題発生時に誰が最終判断するのか宙に浮き意思決定が遅延する。PMはRACIチャートのレビュー時にAccountable列の重複・空欄を最優先でチェックすべき。
3.3.2タックマンモデルによるチーム育成
- 形成期(forming)=メンバがまだ互いを知らず、役割や目的の理解も浅い段階。表面的な礼儀正しさが目立つ一方、率直な意見交換は少ない。PMは目的・役割・進め方を明確に示すことでチームの方向づけを主導する。
- 混乱期(storming)=意見の対立・役割争い・作業の進め方を巡る摩擦が表面化する段階。生産性が一時的に低下しやすいが、これは異常事態ではなくチーム成熟に必要な通過点。PMは対立を無理に抑え込まず、建設的な議論として整理し合意形成を促すファシリテーションに回る。
- 統一期(norming)=対立を経て、チーム内の作業ルール・役割分担・コミュニケーションの規範が定着する段階。相互信頼が芽生え、協力的な雰囲気が生まれる。PMは細かい介入を徐々に減らし、チームの自律性を引き出す方向にシフトする。
- 機能期(performing)=チームが高い自律性と相互補完で成果を上げる、最も生産性の高い段階。PMは日常運営をチームに委任し、障害物の除去や外部との調整といった支援役に徹する。
- 散会期(adjourning)=プロジェクトの終結に伴いチームが解散する段階。PMは成果の引き継ぎ・教訓の記録・メンバの評価とねぎらいを主導する。
- 実務上の要点:混乱期の対立を「チームが機能不全に陥った」と誤解し、メンバを急遽入れ替えるのは典型的な誤った対応——対立はしばしば統一期へ向かう正常なプロセスであり、まずファシリテーションで乗り越えられないかを検討すべき。
「タックマンモデルは形成→混乱→統一→機能→散会の順に進む」「混乱期の生産性低下は正常なプロセスでありPMはファシリテーションに回る」「RACIのAccountableは各作業1名が原則」が最頻出です。混乱期=異常事態ではなく通過点である点、Accountable重複・不在が意思決定遅延を招く点を混同しないこと。
3.3.3動機付け理論の使い分けと資源平準化
- マズローの欲求段階説=生理的欲求から自己実現欲求までの階層構造で人の動機を説明する理論。「メンバの基礎的な欲求(雇用の安定・安全な作業環境等)が満たされていないのでは」という状況診断に向く。
- ハーズバーグの二要因理論=満足を生む動機付け要因(達成感・承認・仕事そのものの面白さ・成長機会)と、不満を防ぐだけの衛生要因(給与・作業条件・対人関係・会社の方針)を区別する理論。「衛生要因をいくら改善しても満足度は上がらず不満の予防にしかならない」ため、モチベーション向上には動機付け要因への働きかけが必要という判断に向く。
- 実務での選び分け:基礎的な欲求の欠如(不安・不満の根本原因)を診断したい場面ではマズロー、「給与を上げたのにやる気が上がらない」といった衛生要因と動機付け要因の取り違えを診断したい場面ではハーズバーグが適合しやすい。
- 資源平準化=特定の期間に資源(要員)の必要量が山積みになるのを避けるため、非クリティカルなアクティビティが持つ余裕(フロート)の範囲内でアクティビティの開始/終了時期を調整し、資源必要量の変動をならす手法。フロートの消費によりプロジェクト完了日を延長せずに済む場合と、フロートが不足し完了日が延びてしまう場合がある点を理解しておく必要がある。
あるPMが、発足直後の新規プロジェクトチームを率いているとします。第1週目、メンバは互いに初対面が多く、会議では表面的な同意ばかりで踏み込んだ議論が出てきません。ここでPMが取るべき対応は、形成期にふさわしく、プロジェクトの目的・各メンバの役割(RACIチャートで明示)・進め方のルールを明確に提示し、チームの方向づけを主導することです。第3週目に入ると状況が一変し、設計方針を巡ってメンバ間で激しい意見対立が生じ、会議が紛糾し、チームの生産性が一時的に落ち込みます。この状況を見たPMが「チームが機能不全に陥った」と判断し、対立の激しいメンバを急遽プロジェクトから外そうとするのは典型的な誤った対応です。これは混乱期の特徴的な現象であり、むしろチームが本音を出し合い、作業ルールや役割分担について真剣に向き合い始めた成熟に向けた正常な通過点です。PMが取るべきは、対立を無理に抑え込むのではなく、論点を整理し建設的な合意形成へ導くファシリテーションです。加えて、あるメンバが「給与を昨年より上げてもらったのに、以前よりむしろやる気が落ちている」と相談してきたとします。これはハーズバーグの二要因理論で説明でき、給与は衛生要因(不満を防ぐだけ)であり、それ自体は満足や動機付けを生まないため、達成感・裁量権・成長機会といった動機付け要因に働きかける必要があると診断できます。一方、別のメンバが「契約更新の見通しが不透明で不安だ」と相談してきた場合はマズローの安全欲求が満たされていない状況であり、まずはこの基礎的な不安を解消することが優先されます。このように、同じ「モチベーションの問題」でも根本原因(基礎的欲求の欠如か、衛生/動機付け要因の取り違えか)によって適用すべき理論と対処が異なる点を見極めるのがPMの役割です。
| 段階 | チームの状態 | PMの関わり方 |
|---|---|---|
| 形成期 | 互いに初対面、表面的な礼儀正しさ | 目的/役割/進め方を明確に主導する |
| 混乱期 | 意見対立・役割争い・生産性一時低下 | ファシリテーションで合意形成を促す |
| 統一期 | ルール定着・相互信頼の芽生え | 介入を減らし自律性を引き出す |
| 機能期 | 高い自律性と相互補完で高成果 | 委任し支援役(障害物除去/外部調整)に回る |
| 散会期 | プロジェクト終結に伴う解散 | 引き継ぎ・教訓記録・評価とねぎらいを主導 |
ひっかけ: 「混乱期に生産性が落ちるのはチームが機能不全に陥った異常事態であり、メンバの入れ替えで対処すべき」は誤りです——混乱期は統一期へ向かう正常な通過点であり、PMはまずファシリテーションで乗り越えるべきです。また「給与を上げれば動機付けが向上する」も誤り=ハーズバーグの二要因理論では給与は衛生要因であり、満足や動機付けそのものは生まない(不満の予防にとどまる)点に注意。
3.3.4この節のまとめ
- RACIはAccountableを各作業1名に定めることで意思決定の所在を明確にする
- タックマンモデルは形成→混乱→統一→機能→散会の順に進み、混乱期の生産性低下は正常な通過点でありPMはファシリテーションに回る
- 動機付けは根本原因で理論を選ぶ:基礎的欲求の欠如=マズロー、衛生/動機付け要因の取り違え=ハーズバーグ
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理解度チェック
(軽い確認用)Q1. 発足から3週目のプロジェクトチームで、設計方針を巡り激しい意見対立が生じ会議が紛糾し、生産性が一時的に低下した。この状況に対しPMが取るべき最も適切な対応はどれか。
Q2. あるメンバから「昨年より給与を上げてもらったのに、以前よりやる気が落ちている」と相談を受けた。この状況を説明する理論とPMが取るべき対応として最も適切なものはどれか。
Q3. RACIチャートをレビューしたところ、ある重要な作業でAccountable(説明責任者)が2名指定されていることが判明した。PMが最優先で懸念すべきリスクとして最も適切なものはどれか。

