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第3章 · インフラストラクチャ·v1.0.0·更新 2026/7/20·読了目安 約19分

変更要約: 初版

3.4EIGRPとOSPFのルーティング概念比較

この節の要点

EIGRP(高度ディスタンスベクタ・DUAL・帯域と遅延のメトリック・varianceによる不等コスト負荷分散・AD 90)とOSPF(リンクステート・SPF・コスト=10^8÷帯域・等コストのみの負荷分散・AD 110エリア種別)を、「この要件ならどちらを選ぶか」「なぜこの経路が選ばれたのか」という判断として比較します。

「なぜこのルートがルーティングテーブルに載り、あのルートは載らないのか」を説明できることが、L3トラブルシュートの土台です。判断は2段階で行われます。まず複数のルーティングプロトコルが同じ宛先を教えてきたらAD(アドミニストレーティブディスタンス)の小さいほうが勝つ、次に同じプロトコル内ではメトリックの小さいほうが勝つ——この順序を取り違えると診断がすべて狂います。この節では、EIGRPとOSPFという性格の異なる2つのIGPを、アルゴリズム・メトリック・負荷分散・階層設計の4観点で比較します。

3.4.1EIGRP:高度ディスタンスベクタとDUAL

  • EIGRPは隣接から聞いた距離情報を使うディスタンスベクタの系譜だが、隣接関係の維持・部分更新・DUAL(Diffusing Update Algorithm)による無ループ計算を備えるため高度ディスタンスベクタと呼ばれる。各宛先についてFD(Feasible Distance)=自分から宛先までの最良メトリックと、RD(Reported Distance)=隣接が報告した宛先までのメトリックを保持する。
  • 最良経路がサクセサRD < FD(フィージビリティ条件)を満たす代替経路がフィージブルサクセサで、これはトポロジテーブルに保持され、サクセサ障害時に再計算なしで即座に昇格する=収束が非常に速い。フィージブルサクセサが無い場合のみ、隣接に問い合わせるクエリ(active状態)が発生し、これが広がると収束が遅れる(stuck-in-active)。
  • メトリックは既定で帯域幅と遅延から計算する(K1とK3が有効・信頼性と負荷は既定で不使用)。EIGRPだけの強みがvarianceによる不等コスト負荷分散で、variance 2 とすればFDの2倍以内のメトリックを持つフィージブルサクセサ経路にもトラフィックを(メトリック比に応じて)流せる。ADは内部経路90・外部経路170・集約5。

3.4.2OSPF:リンクステートとSPF

  • OSPFは各ルータがリンク情報(LSA)をエリア内で洪水的に配布し、全員が同一のLSDB(リンクステートデータベース)を持ったうえで、各自がSPF(ダイクストラ)を実行して自分を根とする最短経路木を求める。噂を伝聞するのではなく地図を共有してから自分で計算するため、ループが構造的に生じにくい。
  • メトリックはコストで、既定は参照帯域幅10^8 bps(100Mbps)÷インタフェース帯域幅(小数切り捨て・最小1)。したがって1Gbps以上のリンクはすべてコスト1に潰れて区別できなくなるため、実務では auto-cost reference-bandwidth 100000(100Gbps基準)などに引き上げ、エリア内の全ルータで同じ値に統一する必要がある。
  • 負荷分散は等コスト(ECMP)のみで、EIGRPのvarianceに相当する不等コスト分散の機能はない。ADは110。階層化のためエリアを使い、全エリアはバックボーン(エリア0)に接続する必要がある。ABR(エリア境界)とASBR(外部再配布点)が境界の役割を担う。
  • エリア種別は要件で選ぶ:ノーマル(全LSAを受ける)、スタブ(外部経路LSA type5を遮断し既定経路で代替)、トータリステブ(Cisco独自・type3のエリア間経路まで遮断しほぼ既定経路のみ)、NSSA(スタブだがそのエリア内にASBRを置ける=type7で外部を注入しABRでtype5へ変換)。目的はいずれもLSDBとルーティングテーブルの縮小である。

3.4.3選定の判断軸

  • マルチベンダ環境なら標準プロトコルのOSPFが事実上の必須。Cisco機器のみで、帯域の異なる複数WAN回線を同時に使い切りたいなら、不等コスト負荷分散のできるEIGRPが優位。設定の簡便さもEIGRPの利点だが、大規模ではOSPFの明示的な階層(エリア)設計が運用の見通しを良くする。
  • ADはプロトコル間の優劣であってメトリックの比較ではない。同じ宛先をEIGRP(AD 90)とOSPF(AD 110)が同時に教えれば、メトリックの良し悪しに関係なくEIGRPが採用される。両方を走らせている環境で「OSPFが計算した最短経路が使われない」という症状は、多くの場合このAD優先の当然の帰結であり、意図的に変えるなら distance で調整する。
試験ポイント

「EIGRP=高度ディスタンスベクタ・DUAL・AD 90・varianceで不等コスト分散」「OSPF=リンクステート・SPF・AD 110・等コストのみ」「OSPFコスト=10^8÷帯域なので1Gbps以上は全部コスト1に潰れる(参照帯域幅の引き上げが必要・全ルータで統一)」「フィージブルサクセサはRD<FDで即時昇格」が頻出です。経路選択はAD→メトリックの順という2段階を必ず意識してください。

あなたは支社と本社を結ぶWANの経路が意図どおりに使われていない、という報告を受けました。構成は、本社向けに1Gbpsの光回線200Mbpsのバックアップ回線の2本があり、設計上は「速い光回線を主として使い、可能なら両方を帯域比で活用したい」というものです。まずOSPFが動いていると聞き show ip route を見ると、両方の回線が等コストで負荷分散されていることが分かりました。一見「両方使えているので良い」と思えますが、これは200Mbpsの回線に1Gbpsと同量のトラフィックが流れていることを意味し、遅い回線が輻輳して全体の品質を落とします。原因はOSPFのコスト計算で、既定の参照帯域幅は10^8 bps=100Mbpsなので、1Gbpsは10^8÷10^9=0.1、200Mbpsも10^8÷(2×10^8)=0.5となり、いずれも最小値の1に丸められてコスト1となり、両者が区別できなくなっているのです。対処は2通りあります。第一に、OSPFを使い続けるなら auto-cost reference-bandwidth 100000 のように参照帯域幅を引き上げ(エリア内の全ルータで同じ値に)、コストに差をつけて速い回線を優先させます。ただしOSPFは等コストしか負荷分散できないため、この対処では速い回線だけが使われ、バックアップ回線は待機に回ります。第二に、「帯域比で両方を同時に使い切る」という当初の要件を満たしたいなら、Cisco機器のみの環境という前提が成り立つ場合に限り、EIGRPへの移行を検討します。EIGRPなら variance 2 を設定することで、FDの2倍以内のメトリックを持つフィージブルサクセサ経路にもメトリック比に応じた量のトラフィックを流せるからです。ここで注意すべき部分解が、「両方を使いたいのでOSPFのコストを手動で同じ値に揃える」という発想です。これは等コスト分散=均等配分になるだけで、帯域比に応じた配分にはならず、むしろ現状の問題を固定化します。また、移行の過渡期にEIGRPとOSPFを同時に走らせる場合は、AD(EIGRP 90 < OSPF 110)によってEIGRPの経路が無条件で採用される点を織り込んでおかないと、「OSPFのコストを調整したのに反映されない」という次の混乱を招きます。

観点EIGRPOSPF
分類/アルゴリズム高度ディスタンスベクタ・DUALリンクステート・SPF(ダイクストラ)
メトリック帯域幅と遅延(既定K1/K3)コスト=10^8÷帯域幅(参照帯域幅は変更可)
負荷分散等コスト+varianceで不等コストも可等コスト(ECMP)のみ
AD内部90/外部170/集約5110
階層/標準性エリア概念なし・Cisco系(設定が簡便)エリア(0がバックボーン)・標準でマルチベンダ可
注意

ひっかけ: 「OSPFでもコストを調整すれば帯域比に応じた不等コスト負荷分散ができる」は誤りです——OSPFは等コスト分散のみで、コストを揃えても均等配分にしかならず帯域比配分にはなりません。不等コスト分散はvarianceを持つEIGRPの機能です。また「メトリックが良いほうの経路が必ず採用される」も誤り=まずADで勝ったプロトコルが選ばれ、メトリック比較はその中で行われます。

EIGRPのDUAL/varianceとOSPFのSPF/コストの比較図。
なぜこの経路が選ばれたのか

3.4.4この節のまとめ

  • EIGRPは高度ディスタンスベクタでDUALを使い、RD<FDのフィージブルサクセサを即時昇格。varianceで不等コスト負荷分散ができAD 90
  • OSPFはLSDBを共有しSPFで計算。コスト=10^8÷帯域で1Gbps以上は全部コスト1に潰れるため参照帯域幅を全ルータで統一して引き上げる。負荷分散は等コストのみAD 110
  • 経路採用はAD→メトリックの2段階。OSPFのエリア種別(スタブ/トータリステブ/NSSA)はLSDBとテーブルの縮小が目的

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理解度チェック

(軽い確認用)

Q1. 支社から本社へ1Gbpsの光回線と200Mbpsのバックアップ回線が接続されている。OSPFが動作しており、`show ip route` では両回線が等コストで負荷分散されているため、遅い回線が輻輳している。この状態の原因として最も適切なものはどれか。

Q2. 帯域の異なる複数のWAN回線を、帯域比に応じて同時に使い切りたいという要件がある。ネットワークはCisco機器のみで構成されている。この要件を満たす設計として最も適切なものはどれか。

Q3. あるルータでEIGRPとOSPFの両方が動作しており、同一の宛先ネットワーク10.1.0.0/16を両プロトコルが学習している。OSPF側のほうがホップ数の少ない経路を計算しているにもかかわらず、ルーティングテーブルにはEIGRPの経路が載っている。この動作の説明として最も適切なものはどれか。

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