変更要約: 初版
1.1情報セキュリティの目的とCIA・管理特性
情報セキュリティの三大要素である機密性・完全性・可用性(CIA)を軸に、真正性・責任追跡性・否認防止・信頼性を加えた管理特性、そしてOECDセキュリティガイドラインの考え方を学び、実際のインシデントでどの特性が損なわれ、何を最優先で対策すべきかを判断する力を養います。
情報処理安全確保支援士(登録セキスペ)に求められる第一歩は、「何を守るのか」を正確に言語化する力です。セキュリティ担当者がインシデント報告を受けたとき、まず行うべきはどのセキュリティ特性が損なわれたのかを切り分けることです。情報漏えいなら機密性、データ改ざんなら完全性、サービス停止なら可用性——特性の切り分けを誤ると、対策の優先順位も誤ります。この節ではCIAと関連する管理特性を、インシデント対応の判断軸として学びます。
1.1.1CIA(機密性・完全性・可用性)
- 機密性(Confidentiality)=許可された者だけが情報にアクセスできる状態。侵害の典型例は情報漏えい・不正アクセスによる盗聴で、対策の中心はアクセス制御・暗号化・最小特権。
- 完全性(Integrity)=情報が正確であり、許可なく改ざん・破壊されていない状態。侵害の典型例はデータの不正な書き換え・なりすましによる不正取引で、対策の中心はデジタル署名・ハッシュによる改ざん検知・アクセス制御ログ。
- 可用性(Availability)=許可された者が必要なときに情報・システムに確実にアクセスできる状態。侵害の典型例はDoS/DDoS攻撃によるサービス停止・ランサムウェアによる暗号化で、対策の中心は冗長構成・帯域制御・バックアップと復旧計画(BCP)。
1.1.2拡張された管理特性(真正性・責任追跡性・否認防止・信頼性)
- 真正性(Authenticity)=利用者・情報・システムが主張どおりの本物であることを確実にする特性。なりすまし対策としての利用者認証・デジタル署名・送信元ドメイン認証(SPF/DKIM/DMARC)が該当する。
- 責任追跡性(Accountability)=ある動作が誰によって行われたかを後から一意に追跡できる特性。アクセスログ・監査証跡(監査ログ)の記録と保全が対策の中心で、内部不正の抑止にも直結する。
- 否認防止(Non-repudiation)=ある行為(送信・承認等)を後から本人が「やっていない」と否認できないように証拠を残す特性。デジタル署名・タイムスタンプによって、行為者と行為内容を後から反証できない形で証明する。
- 信頼性(Reliability)=システムが意図した動作を継続して一貫して行う特性。設計・実装の欠陥による誤動作を防ぐという意味で可用性と近いが、「動くこと」ではなく「正しく動き続けること」に焦点がある点が異なる。
「機密性=見られない」「完全性=書き換えられない」「可用性=止まらない」という一言対応と、「真正性=本人確認」「責任追跡性=誰がやったか追える」「否認防止=後から否認できない証拠」の対比が最頻出です。インシデント記述文からどの特性が損なわれたかを切り分ける練習をしておきましょう。
1.1.3OECDセキュリティガイドライン
- OECDセキュリティガイドライン=情報システム・ネットワークのセキュリティに関する国際的な基本原則(意識・責任・対応・倫理・民主主義・リスク評価・セキュリティの設計と実装・セキュリティマネジメント・再評価等)を示した指針で、各国の情報セキュリティ関連法制・組織のセキュリティポリシー策定の基礎となっている。
あるECサイトのCSIRTメンバーが、次の3件のインシデント報告を同時に受け取ったとします。(1)攻撃者がSQLインジェクションで顧客の氏名・カード情報を含むデータベースを閲覧した形跡がある、(2)受注管理システムの注文数量データが、正規の承認フローを経ずに何者かによって書き換えられていた、(3)大量のリクエストが集中しWebサーバが応答不能に陥りサービスが停止した。CSIRTメンバーはまずどの特性が損なわれたかを切り分けます。(1)は情報が権限のない者に閲覧された機密性の侵害であり、最優先対策は該当データへのアクセス制御の見直しと影響範囲の特定(漏えいの有無の調査)です。(2)は正規の手続きを経ない改ざんであり完全性の侵害で、最優先対策は変更前後の差分検証とアクセスログによる改ざん者の特定(責任追跡性の活用)です。(3)はサービスが利用不能になった可用性の侵害であり、最優先対策は帯域制御・負荷分散などによるサービス復旧を最優先しつつ、原因がDDoS攻撃かどうかを並行して調査します。もし限られた人員で3件に同時対応しなければならない場合、顧客への実害が広がり続けている(1)の機密性侵害(情報漏えいの継続)を最優先で封じ込め(該当機能の緊急停止・パッチ適用)、次に(3)の可用性復旧、最後に(2)の完全性侵害の原因究明という順で優先順位を付けるのが、実害の拡大速度と影響範囲を踏まえた合理的な判断です。このように、CIAの切り分けは「何が起きたか」の分類にとどまらず、対策の優先順位付けの根拠になります。
| 特性 | 侵害の典型例 | 最優先対策の方向性 |
|---|---|---|
| 機密性 | 情報漏えい・不正閲覧 | アクセス制御の是正・影響範囲の特定 |
| 完全性 | 不正な改ざん・なりすまし取引 | 差分検証・改ざん者の特定 |
| 可用性 | DoS/DDoS・ランサムウェアによる停止 | サービス復旧(冗長化・帯域制御)優先 |
ひっかけ: 「なりすましによる不正ログインは可用性の侵害である」は誤りです——本人以外が本人を装ってアクセスした時点で真正性(および結果として機密性・完全性)の侵害であり、サービス停止を伴わない限り可用性とは直接関係しません。また「否認防止と責任追跡性は同じ概念」も誤り=責任追跡性は「誰が行ったかを追跡できる」こと、否認防止は「本人が後から否認できないよう証拠化する」ことで、前者はログの整備、後者はデジタル署名等による証拠固めという異なる対策が中心になります。
1.1.4この節のまとめ
- CIA=機密性(見られない)・完全性(書き換えられない)・可用性(止まらない)。インシデントはまずこの3特性で切り分ける
- 真正性(本人確認)・責任追跡性(誰がやったか追跡)・否認防止(後から否認できない証拠)を区別する
- OECDセキュリティガイドラインは各国の法制・組織ポリシー策定の国際的な基礎原則である
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理解度チェック
(軽い確認用)Q1. あるECサイトのCSIRTが「攻撃者がSQLインジェクションで顧客のカード情報を含むデータベースを閲覧した形跡がある」というインシデントを検知した。損なわれたセキュリティ特性と、次に最優先で実施すべき対応の組み合わせとして最も適切なものはどれか。
Q2. あるシステム管理者が、社内システムへのログイン記録を全て保全し、後から「誰が・いつ・何を実行したか」を一意に追跡できるようにする対策を導入した。この対策が直接高めるセキュリティ特性はどれか。
Q3. ある企業が、契約書の電子承認においてデジタル署名とタイムスタンプを付与する仕組みを導入した。これにより承認者が後から「自分は承認していない」と主張することを防ぎたい。この目的に最も対応するセキュリティ特性はどれか。

