変更要約: 初版
1.1CIAトライアドと多層防御
セキュリティの目的を測る三本柱機密性(Confidentiality)・完全性(Integrity)・可用性(Availability)(CIAトライアド)と、単一の防御に依存しない多層防御(defense-in-depth)を、「このインシデントで損なわれたのはCIAのどれか」「どこに層を足せば止まったか」という現場判断として学びます。
SOC(セキュリティオペレーションセンター)のアナリストは、アラートを見た瞬間に「これは何を守れていないのか」を言語化できなければトリアージできません。その共通言語がCIAトライアドです。機密性・完全性・可用性のどれが脅かされているかで、緊急度も次の一手もまったく変わります。そしてどれか1つの防御が破られても被害を食い止めるのが多層防御の思想です。この節では、インシデントをCIAで分解し、どこに層を足せば連鎖を断てたかを判断できるようにします。
1.1.1CIAの3要素
- 機密性(Confidentiality)=認可された者だけがデータを見られる性質。破られると情報漏えいになる。守る手段は暗号化・アクセス制御・最小権限など。SOCでは「誰が見えてはいけないデータにアクセスしたか」を問う。
- 完全性(Integrity)=データが改ざん・破壊されず正確に保たれる性質。破られると改ざん・不正な書き換えになる。守る手段はハッシュ・デジタル署名・変更管理など。SOCでは「この設定/ファイル/取引は勝手に書き換えられていないか」を問う。
- 可用性(Availability)=認可された者が必要なときにデータ/サービスを使える性質。破られるとサービス停止になる。守る手段は冗長化・バックアップ・DDoS対策など。SOCでは「正規利用者がアクセスできない状態が攻撃によるものか」を問う。
1.1.2多層防御の考え方
- 多層防御(defense-in-depth)=1つの防御が突破されても次の層で止められるよう、境界・ネットワーク・ホスト・アプリ・データの各層に独立した対策を重ねる設計。「境界のファイアウォールがあるからホストのパッチは後回し」という単一防御依存を避ける。
- 層は技術だけでなく予防・検知・対応の時間軸でも重ねる:入口で防ぎ(予防)、抜けたら気づき(検知=IDS/SIEM)、気づいたら封じ込める(対応)。SOCの監視は主に検知と対応の層を担い、予防層をすり抜けた脅威を捕まえる最後の砦になる。
「機密性=漏えい/完全性=改ざん(ハッシュ・署名で守る)/可用性=停止(冗長化・DDoS対策で守る)」の対応と、「多層防御=独立した層の重ね合わせで単一防御依存を避ける」が頻出です。インシデントの症状(漏えい/改ざん/停止)から損なわれたCIAプロパティを即座に対応づける練習をしましょう。
あなたはSOCの当直アナリストで、深夜にECサイトから3つの事象が立て続けに上がってきました。(1) 顧客DBのダンプ疑いで大量のレコードが外部へ送信、(2) 商品価格テーブルが不正なUPDATEで書き換えられ一部商品が1円に、(3) 決済APIが応答せず注文が通らない。「全部インシデントだ」で片付けず、まず各事象をCIAで分解します。(1)は認可されない者がデータを閲覧・持ち出した=機密性の侵害、(2)は正しいはずのデータが書き換えられた=完全性の侵害、(3)は正規利用者がサービスを使えない=可用性の侵害です。この分解が効くのは、対応の優先度と手立てが変わるからです。完全性侵害の(2)は、改ざん前の値とのハッシュや監査ログで差分を確定し、正しいバックアップから復元しつつ改ざん経路(SQLi等)を塞ぐ。可用性侵害の(3)は、DDoSなのか単なる高負荷なのかをトラフィックで切り分け、冗長系へフェイルオーバーする。機密性侵害の(1)は、漏えい範囲の確定と法的通知の検討に直結する。さらに多層防御の視点で振り返ると、(2)のSQLiは「アプリのWAF(予防層)→DBの最小権限(アクセス層)→改ざん検知(検知層)」のどこかに層があれば連鎖を断てた可能性が見えます。CIAは「何が壊れたか」を、多層防御は「どこで止められたか」を教えてくれる——この2つを組み合わせて初めて、アラートの洪水を構造化された判断に変えられます。
| CIA要素 | 破られた状態 | 主な守り方 | SOCでの問い |
|---|---|---|---|
| 機密性 | 情報漏えい・不正閲覧 | 暗号化・アクセス制御・最小権限 | 見えてはいけないデータに誰が触れたか |
| 完全性 | 改ざん・不正な書き換え | ハッシュ・デジタル署名・変更管理 | この値/ファイルは勝手に書き換わっていないか |
| 可用性 | サービス停止・遅延 | 冗長化・バックアップ・DDoS対策 | 使えない状態は攻撃によるものか |
ひっかけ: 「データが暗号化されていれば改ざんも防げる」は誤りです——暗号化は主に機密性を守り、改ざん(完全性)の検知にはハッシュやデジタル署名が要ります。また「境界にファイアウォールがあれば内部のパッチ管理は不要」も誤り=これは単一防御依存であり、多層防御は境界が破られた後もホスト/アプリ/データの各層で止められることを前提にします。
1.1.3この節のまとめ
- CIAトライアド:機密性=漏えい、完全性=改ざん、可用性=停止。症状から損なわれたプロパティを即座に対応づける
- 完全性はハッシュ/署名で、可用性は冗長化/DDoS対策で守る。機密性侵害は漏えい範囲確定と通知に直結する
- 多層防御は独立した層の重ね合わせで単一防御依存を避ける。SOCの監視は主に検知・対応層を担う
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理解度チェック
(軽い確認用)Q1. SOCのアラートで、社内の会計サーバ上の仕訳データが承認プロセスを経ずに書き換えられ、金額が改変された痕跡が見つかった。このインシデントで第一に侵害されたCIAプロパティと、それを裏付けるのに最も適した手段の組み合わせはどれか。
Q2. 経営層から「境界にNGFWを1台入れたので、社内サーバのパッチ適用やホストのウイルス対策はコスト削減のため縮小してよいか」と問われた。多層防御の観点から最も適切な回答はどれか。
Q3. 公開Webサービスが大量の不正なリクエストを受け、正規の利用者がページを開けない状態が続いている。データの持ち出しや書き換えの痕跡は見当たらない。この事象で主に侵害されているCIAプロパティはどれか。

