変更要約: AZ-900 第1章(クラウドの基礎概念)を追加
1.2クラウドサービスの種類と責任共有モデル
IaaS・PaaS・SaaS という3つのサービスモデルを、「自由度と手間のトレードオフ」という1本の軸で理解します。それぞれが管理する範囲・代表的な Azure サービス・向く用途を比較表で押さえ、さらにサーバーレス(FaaS)の位置づけにも触れます。最後に、クラウドのセキュリティを理解するうえで最重要の「責任共有モデル」を、レイヤー別の責任分担マトリクスで学びます。
クラウドのサービスは数百種類ありますが、「どこまでをクラウド事業者(プロバイダー)が面倒を見て、どこからを自分で管理するか」という1つの軸で整理すると一気に見通しがよくなります。この軸の上に並ぶ代表的な3段階が IaaS・PaaS・SaaS です。左へ行くほど自由度(コントロール)が高い代わりに手間(管理の責任)が増え、右へ行くほど手間が減る代わりに細かい制御はできなくなる——この「自由度と手間のトレードオフ」が、3モデルを理解する核心です。歴史的にも、すべてを自前で抱えるオンプレミスから出発し、まず物理サーバーを仮想化して貸し出す IaaS が生まれ、次にアプリ開発に集中できる PaaS、そして完成品をそのまま使う SaaS へと、「任せられる範囲を増やす」方向に進化してきました。
この軸を「管理スタック」で具体化すると正確に理解できます。下から 物理ハードウェア → 仮想化基盤 → OS → ランタイム/ミドルウェア → アプリケーション → データ という層が積み上がっており、各モデルは「どの層までをプロバイダーが管理するか」で線引きが変わります。オンプレミスは全層が自分、IaaS は OS の手前まで(仮想化基盤まで)がプロバイダー、PaaS は OS とランタイムまでがプロバイダー、SaaS はアプリまでプロバイダー、という具合です。以降、この層の積み上がりを念頭に各モデルを見ていきます。
1.2.1出発点:オンプレミス
3モデルを理解する前に、比較の基準となる オンプレミス(on-premises)を押さえましょう。オンプレミスとは、サーバーやネットワーク機器を自社で購入・所有し、自社の建物やデータセンターに設置して運用する従来型のスタイルです。電源・空調・物理セキュリティ・ハードウェアの故障対応・OS やソフトの更新・バックアップまで、すべてを自分たちで担います。自由度は最大ですが、初期投資(CapEx)が大きく、需要が増えたときの増設にも時間がかかります。クラウドの IaaS・PaaS・SaaS は、この「全部自前」の負担を、段階的にプロバイダーへ移していくものだと捉えると、3モデルの違いがすっきり整理できます。
1.2.2IaaS — インフラを借りる
IaaS(Infrastructure as a Service)は、仮想マシン・仮想ネットワーク・ストレージといった生のインフラを借りるモデルです。プロバイダーは物理サーバー・電源・冷却・仮想化基盤(ハイパーバイザー)までを用意し、利用者はOS から上——OS のインストールとパッチ適用、ミドルウェア、アプリ、データ——を自分で管理します。3モデルの中で最も自由度が高い反面、運用の手間も最も大きくなります。
代表は Azure Virtual Machines(VM) です。ほかにも、同じ VM を自動で増減させる 仮想マシンスケールセット(VMSS)、VM をつなぐ 仮想ネットワーク(VNet)、データを保存する マネージドディスク、入口で負荷を分散する ロードバランサー なども IaaS の構成要素です。これらを組み合わせれば、オンプレミスのデータセンターとほぼ同等の構成を、物理機器を買わずにクラウド上に再現できます。
- リフト&シフト移行:既存のオンプレ サーバーを、構成をほぼ変えずにクラウドへ「持ち上げて移す」。
- 開発・テスト環境:必要なときだけ VM を立て、終わったら削除してコストを抑える。
- 特殊な OS・ソフト構成:特定の OS バージョンや独自ミドルウェアが必要で、PaaS では収まらない場合。
1.2.3PaaS — 実行基盤を借りる
PaaS(Platform as a Service)は、アプリを動かすための実行基盤(プラットフォーム)を借りるモデルです。OS・ランタイム・パッチ適用・スケーリングの土台はプロバイダーが管理し、利用者はアプリのコードとデータに集中できます。サーバーの面倒(OS 更新やセキュリティパッチ)から解放されるため、開発スピードが上がるのが最大の利点です。
代表例は、Web アプリをデプロイするだけで動く Azure App Service、フルマネージドのリレーショナル DB である Azure SQL Database、グローバル分散の NoSQL である Azure Cosmos DB などです。OS の存在を意識せずスケールや冗長化を任せられるため、「インフラは任せたいが、アプリの作りは自分で決めたい」という多くの開発現場の標準的な選択肢になっています。
1.2.4SaaS — 完成したソフトを使う
SaaS(Software as a Service)は、完成したソフトウェアを、ブラウザなどからそのまま利用するモデルです。インストールもサーバー管理も不要で、申し込めばすぐ使え、更新やバックアップもプロバイダー任せ。利用者が管理するのは基本的に自分のデータとアカウント設定だけです。
代表例は Microsoft 365(メールの Exchange Online、Teams、OneDrive など)や Dynamics 365(営業・会計などの業務アプリ)です。手間は最小ですが、ソフトの仕様はプロバイダーが決めるため、細かいカスタマイズの自由度は最も低くなります。「車輪の再発明」をせず、メールや会計のようなどの会社も必要とする定型業務を、最短で使い始めたいときに最適です。
1.2.5発展:サーバーレスと FaaS
PaaS をさらに突き詰めたのが サーバーレス で、その代表が FaaS(Function as a Service)= Azure Functions です。サーバーの存在を一切意識せず、イベント(HTTP 要求やキューへの投入、タイマーなど)が来たときだけコードが実行され、実行した分(時間・回数)だけ課金されます。待機中の費用がほぼゼロになるため、たまにしか動かない処理や、夜間バッチ・通知・自動化に向きます。「サーバーレス」という名前ですが、裏ではプロバイダーがサーバーを動かしています——利用者がサーバーを意識・管理しなくてよい、という意味です。AZ-900 では「サーバーレス=サーバー管理が不要で、使った分だけ課金」という性質を押さえれば十分です。
1.2.63モデルの比較
| 観点 | IaaS | PaaS | SaaS |
|---|---|---|---|
| 借りるもの | インフラ(VM・NW・ストレージ) | アプリの実行基盤 | 完成したソフトウェア |
| 利用者が管理 | OS・ミドルウェア・アプリ・データ | アプリ・データ | データ・アカウント設定 |
| プロバイダーが管理 | 物理〜仮想化基盤 | 物理〜OS・ランタイム | ほぼすべて |
| 自由度 | 高い | 中 | 低い |
| 運用の手間 | 大きい | 中 | 小さい |
| Azure の例 | Azure Virtual Machines | Azure App Service・Azure SQL Database | Microsoft 365・Dynamics 365 |
| 向く用途 | リフト&シフト/特殊構成 | 自作アプリを素早く公開 | 業務ソフトを即利用 |
1.2.7どれを選ぶ? 選定の考え方
モデル選びに唯一の正解はなく、要件(自由度・スピード・運用負荷・コスト)に照らして決めるのが原則です。迷ったら「できるだけ右(任せられる方)を選び、要件が許さないときだけ左へ寄せる」と考えると失敗しにくくなります。次の表は、よくある要望に対するおおまかな指針です。
| やりたいこと・要件 | おすすめ | 理由 |
|---|---|---|
| 既存サーバーをそのまま移したい | IaaS | 構成を保ったまま移行でき、OS まで自由に制御できる |
| 自作アプリを早く公開・スケールさせたい | PaaS | OS 管理が不要で、アプリとデータに集中できる |
| メールや業務ソフトをすぐ使いたい | SaaS | 完成品をそのまま使え、運用がほぼ不要 |
| たまに動く処理を低コストで | サーバーレス(Functions) | 待機中の費用がほぼゼロ、使った分だけ課金 |
| 特殊な OS/厳しい規制要件 | IaaS(場合によりオンプレ) | 細部まで制御でき、要件に合わせ込める |
1.2.8シナリオで理解する
シナリオ
①:スタートアップの新規 Web サービス。 早く出して急な利用増にも耐えたい。→ PaaS(App Service + SQL Database) が好相性。OS 管理に人手を割かず、需要に応じて自動スケール。サーバーレス(Functions)を画像処理などの裏方に足すのも定石。
シナリオ
②:古い基幹システム(ERP)をクラウドへ。 特定 OS とミドルウェアに依存し、作り替える余裕はない。→ まずは IaaS(VM)へリフト&シフト。構成を保ったまま移し、落ち着いてから段階的に PaaS 化(モダナイズ)を検討。
シナリオ
③:全社のメールとファイル共有。 どの会社も必要な定型機能で、自前運用の価値は薄い。→ SaaS(Microsoft 365)。サーバーも更新も不要で、利用者は ID とデータの管理に集中すればよい。
1.2.9責任共有モデル
クラウドのセキュリティを語るうえで最重要の考え方が 責任共有モデル です。これは「セキュリティと運用の責任を、プロバイダーと利用者で分担する」という取り決めで、どこまでが事業者の責任で、どこからが自分の責任かをレイヤー(層)ごとに定めます。重要なのは、この境界がサービスモデルによって動くこと。IaaS では利用者が OS から上を持つので責任範囲が広く、SaaS ではアプリまで事業者が見るので責任範囲が狭くなります。「クラウドに載せたから安全」ではなく、自分の責任範囲は自分で守る——これがクラウドセキュリティの出発点です。
次の表は、代表的なレイヤーごとに「誰の責任か」を3モデルで並べたものです(◎=その責任を主に負う側)。上のレイヤーほど利用者寄り、下のレイヤーほどプロバイダー寄りになり、IaaS→PaaS→SaaS と進むにつれて利用者の◎が減っていくのが読み取れます。
| レイヤー | IaaS | PaaS | SaaS |
|---|---|---|---|
| データ | 利用者 ● | 利用者 ● | 利用者 ● |
| アカウント・ID | 利用者 ● | 利用者 ● | 利用者 ● |
| デバイス | 利用者 ● | 利用者 ● | 利用者 ● |
| アプリケーション | 利用者 ● | 共有 | プロバイダー ● |
| OS・ランタイム | 利用者 ● | プロバイダー ● | プロバイダー ● |
| 仮想化・ネットワーク制御 | プロバイダー ● | プロバイダー ● | プロバイダー ● |
| 物理(DC・サーバー) | プロバイダー ● | プロバイダー ● | プロバイダー ● |
サービスモデルにかかわらず常に利用者が責任を持つのは データ/アカウントと ID/デバイス の3つ。逆に 物理的なセキュリティ(データセンター・物理サーバー・物理ネットワーク)は常にプロバイダー の責任です。この「常に利用者/常にプロバイダー」の両端は丸暗記しておくと迷いません。
よくある誤解:「クラウドなら ID 管理もデータ保護も全部おまかせ」は誤り。 たとえば SaaS(Microsoft 365)でも、弱いパスワードや MFA 未設定で不正ログインされれば、それは利用者側の責任範囲の問題です。事業者はインフラとアプリを守りますが、あなたのアカウント・データは、あなたの設定次第です。
モデル別に具体化すると分かりやすくなります。IaaS の VM を使うなら、OS のパッチ適用・ウイルス対策・アプリの脆弱性対応まで利用者の仕事です。PaaS の App Service なら OS とランタイムの更新は事業者がやってくれるので、利用者はアプリのコードと設定(認証・アクセス制御)に責任を持ちます。SaaS の Microsoft 365 では、ソフトの維持は事業者任せでよく、利用者の主な仕事は「誰に・どのデータへのアクセスを許すか」という ID とデータの管理に絞られます。どのモデルでも“データ・ID・デバイス”だけは必ず手元に残る、という一点を軸に考えると整理できます。
Q. 「責任共有」と「サービスモデル」は別の話? いいえ、表裏一体です。サービスモデル(IaaS/PaaS/SaaS)が「どこまで借りるか」を決め、責任共有モデルが「その結果どこからが自分の責任か」を示します。借りる範囲が広い(SaaS)ほど自分の責任は狭く、狭い(IaaS)ほど自分の責任は広くなります。
1.2.10周辺知識:オンプレミスとの位置づけ
この3モデルの左隣に オンプレミス(自社で物理サーバーまで所有・管理)を置くと、全体像がつながります。オンプレミス→IaaS→PaaS→SaaS と右へ進むほど、管理の手間と前払いの投資(CapEx)が減り、その代わり事業者へ委ねる範囲が増えるという一貫した流れです。実際の企業では、規制の厳しいシステムはオンプレミスや IaaS、社内の定型業務は SaaS、自社開発の Web サービスは PaaS、というように複数モデルを組み合わせて使うのが普通です。「どれが正解」ではなく、要件(自由度・スピード・コスト・コンプライアンス)に応じて選ぶ、という視点が大切です。
試験のひっかけ:
①例とモデルの対応(VM=IaaS/App Service・SQL Database=PaaS/Microsoft 365=SaaS)、
②「OS のパッチを誰が当てるか」→ IaaS は利用者・PaaS/SaaS はプロバイダー、
③データ・ID・デバイスは常に利用者/物理は常にプロバイダー、
④サーバーレス=サーバー管理不要で従量課金。選択肢で「SaaS なのに OS 管理は利用者」などの取り違えに注意。
1.2.11この節のまとめ
- 3モデルは「自由度↔手間」の1軸:IaaS=インフラ(自由・手間大)/PaaS=実行基盤(中庸)/SaaS=完成ソフト(手間小・自由小)
- 例:VM=IaaS/App Service・SQL Database=PaaS/Microsoft 365=SaaS。さらに Azure Functions=サーバーレス/FaaS
- 責任共有モデル:境界はモデルで動く。データ・ID・デバイスは常に利用者/物理は常にプロバイダー
- オンプレ→IaaS→PaaS→SaaS で手間と CapEx が減り、委ねる範囲が増える。実務は複数モデルの組合せ
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理解度チェック
(軽い確認用)Q1. Azure Virtual Machines はどのクラウドサービスモデルに該当しますか?
Q2. 責任共有モデルで、サービスの種類にかかわらず常に利用者が責任を持つものはどれですか?
Q3. OS のセキュリティパッチ適用が「プロバイダーの責任」になるのはどのモデルですか?(最も自由度の高いモデルを除く)
Q4. イベント発生時だけコードが実行され、実行時間分だけ課金される Azure のサービスはどれですか?
Q5. 物理サーバーからOS・アプリまで「すべてを自社で所有・管理」する従来型のスタイルはどれですか?
Q6. 自作の Web アプリを、OS 管理に手をかけず素早く公開・自動スケールさせたい場合に最も適したモデルはどれですか?

